医療に関する意見、日本人のあり方に関する意見


by rr4546
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症例 T.T. 男 78歳
現病歴:63歳(平成12年3月)までJR西日本の電気関係の仕事に従事、退職前は指導教官をしていた。真面目な性格で、退職後はスポーツジムに毎日通い、体力維持につとめていた。平成23年初め(72歳)頃より物忘れが始まり、土足でジムに上がったり、ジムの利用手続きがわからなかったりの症状があり、MRI検査でAlzheimer型認知症の診断を受け、抗認知症薬(アリセプト)の投与を受けた。
その後、些細なことで家人といざこざを起こしたり、場所や時間に対する見当識障害が目立つようになり、家の中を徘徊したり昼夜逆転の症状がみられるようになった。家人は疲弊して、平成25年2月よりわれわれの施設のデイケアを利用するようになった。
平成26年12月4日自宅で転倒。左半身不全麻痺を認め通院していた医療機関に入院。脳梗塞と右中大脳動脈狭窄症の診断で12月11日まで7日間入院、加療を受けた。
入院中、昼夜逆転、徘徊、点滴の自己抜去などがあったが、落ち着いた環境では表情も穏やかで、礼節も保たれており、十分ではないが意思疎通も可能であった。入院中言語聴覚士は前頭葉検査を実施し、FAB(ネット参照)で18点中9点と前頭葉機能が低下していることを指摘。そのことに関して、医療機関内では話題にならなかった。左不全麻痺があるので、階段の昇降は介助が必要であったが、独歩可能。食事、排尿、排便、衣類や靴の着脱はすべて自立していた。
退所後も家で落ち着きがなく、易怒性も認められ、家の中を徘徊し、昼夜逆転がありショートステイをたびたび利用して現在に至る。
脳梗塞入院中の内服薬(投与量、服用時間不明)
1 タムスロシン塩酸塩OD
2 バイアスピリン
3 デパス
4 レンドルミン
5 ランソプラゾール
ショートステイ時の処方(脳神経外科医の処方)
1 レミニ―ルOD(8) 2錠 2x分 朝夕
2 タムスロシン塩酸塩OD(0.2)  1錠 朝
3 ファモチジンD (20)  1錠 朝
4 バイアスピリン 1錠 朝
5 ユニシア配合錠 HD 1錠 1x分 朝
6 アスパラカリウム(300) 1錠 1x分 朝
7 ツムラ抑肝散(2.5)  2袋 2x分
8 クレメジン細顆粒 2g 1x分 昼
9 エチゾラム(0.5) 1錠 眠前
ショートステイ時にイライラした表情、夜間の徘徊、詰所への無断侵入と自己中心的振舞いが目立った。詳細は下記紹介状参照。
息子夫婦が看護・医療関係で専門職として働いているので、患者の現状と、家人を困らせる不穏・易怒性、徘徊、昼夜逆転の対応について施設の方針を説明。主治医に薬を調整してもらうよう依頼した。ただ家人は主治医がパソコンに向かって、変わりはないかと患者を問診するだけで、自分のほうから注文を付けることは言い出せないという。
出過ぎたことと自覚しながら、入所中のわたしどもの対応について連絡した。
ご連絡事項:
平成27年6月1日か6月8日からショートステイされました。
以前からショートステイやデイケアを利用されています。
言語的コミュニケーションはほぼ保たれていますが、十分内容が伝わっているか心配ですが。認知機能の中で遅延再生が強く障害されています。
ただいつものことですが、入所時はtensionが高く、自己中心的な振る舞いや、詰所に入り込む等の無意味な振る舞いがありstaffを困らせます。常同行動といっていい廊下の徘徊もみられます。就寝後も中途覚醒して徘徊します。臨床症状から、理性的な振る舞いを制御する前頭葉機能が障害されるPickが疑われました。
画像診断から脳梗塞そしてAlzheimer型の海馬の萎縮等があるとのこと。
こういう場合は、アセチルコリンを上昇させる(アリセプト、レミニ―ル)薬による薬剤性のPick様症状と私どもは診断します。Tensionの高い認知症にはアセチルコリンを上昇させる薬は禁忌と考えるほうが、無難です。
そこで勝手ですがレミニ―ルを減量しました。少し落ち着きが出て、自己中心的な振る舞いもあまり見られなくなりました。
夜間エチゾラム服用後12時ごろ覚醒。病室で徘徊しますので、セロクエル(25)半錠を夕食後に投与したところ、良眠が得られました。
認知障害がある患者の不眠に、ベンゾジアゼピン系の薬剤を投与すると入眠は得られますが、夜間に覚醒して歩き回るなどをして家人を困らせることが多く、セロクエルのような抗精神病薬を投与すると著効が得られる場合が多いです。
((入所後レミニ―ル、ファモチジン中止、入所当日不眠に対してセロクエル25mg半錠投与、コントミン(12.5) 1錠(半錠づつ) 2x分 2日間その後中止した。たそがれ症候群のような症状があったのでリスペリドン(1)1錠 1x分 昼投与。穏やかになり、笑顔も増え入所者と談笑するようになった。
認知症患者に見られる多彩な中核症状やBPSDについて、外来診察で観察できることはごく一部である。丁寧に診察しても、患者の全体像は把握できない場合が多いであろう。いや身内は認知症に伴う精神・行動異常と誤解して、諦めて主治医に申告しないこともある。主治医もそういうのが認知症の特徴であると受け流す。
とくに認知症は、不都合を来していた家庭生活や社会生活がうまくできるようになるなどの、治療効果が見込めないだけに、心しないと投げやりな対応をしがちである。治すことが仕事であるものにとっては、張合いのない診療現場であると感じるのは致し方ない。しかし認知症患者の治療目標、患者家族へのサポートと認知症診療は迷いながらきめ細かくさじ加減をしなければならない。
よりよい認知症医療現場を作るためには、患者のあらゆる情報を家人や多職種から収集して診療に当たることが必須である。
認知症に関わる医師(医師間も含めて)、看護師、介護士、薬剤師、リハビリスタッフが共同で患者のための情報を共有して初めて認知症医療は成り立つ。
実際言語聴覚士が見出した前頭葉機能低下についても、治療に生かされなかった。薬の副作用検索の頻度を公開している「安心処方infobox」で、薬剤師がアリセプト、レミニール、メマリーの副作用を検索する頻度はベストテンに入るほど高頻度であるが、医師が抗認知症薬の副作用を検索する頻度はベストテンに入ったことがない(副作用検索ランキング、2014年3月、5月、6月、8月、10月安心処方infoboxより)。薬剤師と医師との間で、抗認知症薬の副作用について話し合われることはほとんどないのではないだろうか。勿論わたしの提供した情報に対する返事はない。次回のショートステイ時にも、同じ処方のままショートステイしてきた。患者の行動についてよく把握している介護士は、多くの場合これが認知症という病気の特徴と考え、介護に工夫を凝らしている。彼らの多くは医師に意見を具申することは出過ぎたことと控えめである。かくの如く認知症医療現場は風通しが悪い。
今喫緊に取り組むべきは、多職種間で患者の情報を共有するシステムを機能させることである。システムはある。医師が率先して多職種からの情報を謙虚に聞きとり、認知症医療を多職種協働でスムーズに行う環境を作ることである。医師の責任は重い。抗認知症薬の処方だけをしていれば、認知症医療現場の機能不全は悪化するばかりであろう。
対応は簡単である。認知症患者を日常的にたくさん見て、多職種が働いている現場からの情報をいかに活用するかについて工夫すればよい。現在の認知症医療現場の荒廃は少しは改善されるであろう。
参考文献 
1寮隆吉:認知症患者の周辺症状に対する薬物療法-介護老人保健施設での試みー  京都医学会雑誌 56:57-62,2009
2寮隆吉:症例から学ぶ高齢者疾患の特徴とその対応 認知症 p25-40 金芳堂 2011年

by rr4546 | 2015-07-27 13:14 | 医療関係 | Comments(1)
BPSD(認知症の行動ならびに精神症状の英語の略)は認知症患者にみられる言動・行動のすべてが含まれると定義されている(かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドラインから)。
最近マスコミなどで話題になっている認知症患者の行方不明事件は患者特有の「徘徊」という行動異常が招いた結果である。定義に従えば、徘徊は典型的なBPSDである。
ガイドラインのどこを見ても、徘徊への対応への言及がない。マスコミは行方不明者の多さを報道し、認知症の不気味な面だけを煽り、世間が頼りにしている権威たちはほおかぶりしてその対策を述べない。
結論から言えば徘徊は薬物で治療できない。非薬物的な介入でも防げない場合が多い。対応は後で述べる。残念な現況だが、専門家たちはその理由を含めて、ガイドラインの中で徘徊に対して何らかのコメントをするべきであろう。研究班まで組んで作成したものが厚労省のホームページで公開されている。
徘徊に対して権威たちがあまり発言しない理由が何かあるに違いない。
認知症患者の言動・行動異常を一括りでBPSDと定義することに無理があるのではないだろうか。
BPSDを損傷を受けた脳神経細胞由来の症状(中核症状)と、損傷を受けた部位の機能不全で、身体的あるいは精神的な刺激に正しく適応できないことによって生ずる症状(狭義のBPSD)の二種類に分けて考えれば、もう少し対応の方法をきめ細かく助言できるのではないだろうか。非薬物的介入や薬物療法の適応についても、もう少しわかりやすい手引書ができあがるのではないだろうか。
ガイドラインのように、BPSDをその由来に触れないで幻覚、妄想、攻撃性、焦燥、抑うつ、不安、緊張、易刺激性、入眠障害、中途・早期覚醒と臨床症状だけを挙げて、薬物療法の進め方を解説すれば、前回紹介したレミニール(アリセプト)、メマリーそしてセロクエル投与で廃人にさせられる症例はいくらでも生まれる。このような症例は全国いたるところで見かけるであろう。わたしの所属する地区だけの悲劇ではない。
徘徊に戻ろう。徘徊は認知症の中核症状からくるBPSDで、認知症特有の近時体験記憶障害と同じで、損傷を受けた神経細胞の再生がなければ改善できない。現時点では退行・死滅した神経細胞の再生はできない。従って薬物療法はない。アセチルコリン(アリセプト、レミニール、リバスタッチ)やNMDA受容体阻害(メマリー)には神経細胞を再生させる働きはない。
徘徊は認知症患者特有の場所の見当識障害、視空間認知障害そして近時体験記憶(すべて中核症状である)が重なって、出かける目的地が途中でわからなくなり、どこにいるか認識できないので、思いつくところを歩き回る現象である。その上、患者の多くは病識がないので、ここがどこですかと誰にも尋ねない。その結果行方不明になる。徘徊は周辺症状(狭義のBPSD)ではなく中核症状の一つである。
繰り返すが退行変性した神経細胞によってもたらされた近時体験記憶障害、場所の見当識障害、視空間認知障害は治療できない。われわれは神経細胞を再生させる技術を持っていないからである!従って徘徊は薬で治療できない。
認知症を薬で治すといっている手前、はっきりそれを指摘できないので、徘徊は治療ガイダンスから省かれたのかもしれない。ゲスの勘繰りであるが。嗚呼!
徘徊ははっきりした目的から生み出された認知症患者の中核症状である。家人や主治医は患者が何を望んでいるかを注意深く観察して、彼あるいは彼女の希望を叶えるための環境つくりをしなければならない。
突然甲子園球場に出かけることはない。友人の家や元住んでいた家に出かけて、結果的に徘徊するのである。
徘徊している患者は発見されると心の底から喜ばれる。徘徊して周りのものを困らせるなどの邪な思いはない。患者が何をしたいかについてよく理解して、もし外出する動機があればその対応をすれば、徘徊老人は減少するであろう。行方不明になっても容易に見出すことができるであろう。徘徊そして行方不明は多くの場合は家人や主治医の責任である。
物取られ妄想も大切なものを置いた場所を忘れ(中核症状)て探し回る、中核症状である。井上靖氏のご母堂が夜間懐中電灯をもって何かを探し回るBPSDも、彼女が何を探しているかにご家族が思い当たった時に、解決した(詳しい内容は忘れたので状況は間違っているかもしれない)。そして穏やかな最後を迎えられた。
前回取り上げた焦燥性興奮(不穏、昼夜逆転、暴力行為、介護拒否)は肉体的あるいは精神的なストレスに適応できないで出てきた精神症状で家人を最も困らせる周辺症状で、わたしはこの適応障害を厳密な意味でのBPSDと定義している。多くの人が認知症の中核症状と誤解しているが、それは間違っている。
家庭生活を困難にさせる焦燥性興奮を起こす可能性のある薬は止めるとのわたしの提案は、焦燥性興奮に対して医師がやれることの最初のことだからである。抗認知症薬の薬屋のパンフレット参照。このことは繰り返さない。

by rr4546 | 2015-07-14 15:39 | 医療関係 | Comments(0)