医療に関する意見、日本人のあり方に関する意見


by rr4546
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 糖尿病そして高血圧領域の多くの薬は10年前以前に開発され2010年に特許が切れるのが多いということは前回述べた。そして新薬まがいの合剤の降圧剤が多く売り出されている現況について触れた。高齢者の医療領域でもこれでいいのだろうかと首を傾げたくなるビジネスがあるのである。
 今回紹介する重篤低血糖発作を来した糖尿病の新薬、Jは食後に消化管から分泌され、インシュリンを分泌させたりグルカゴンの分泌を抑制したりする消化管ホルモン、インクレチン(GLPおよびGIP)を分解する酵素DPP-4を阻害してインクレチンの働きを持続させるという、従来の化学的に合成された糖尿病治療薬と全く違った生理的な作用機序を持つ糖尿病治療薬である。糖尿病専門医は、低血糖を起こしにくい、体重増加を抑制するそして膵β細胞機能の改善などがあるので、2型糖尿病の治療を大きく変える可能性があるとお墨付きを与えた。そして去年暮れに臨床の現場に登場した。しかし京都でも入院を必要とした重篤な低血糖発作を来した患者が出現した。私の推測では低血糖発作で脳に不可逆的な障害を残した患者もいると思う。
 売り出される前にその安全性を確認するために多くの医師によって治験が行われ安全性は厳重にチェックされたはずである。製薬会社が最も恐れるのは薬の副作用だからである。どうして高血糖で困っている糖尿病患者に低血糖発作を引き起こすような副作用が新薬の投与で見られたのであろうか。副作用を十分説明しないで新薬で高い売上高を上げようというビジネスに協力する人たちがいたのであろう。私たちはその背景を知っておかないと治療してもらいたいのに副作用で苦しむような理不尽な体験をするであろう。
 薬は効果があると同時に当然であるが副作用もある。薬理作用から考えて、体にいいことばかりの薬など作りようがない。効果だけあるような夢のような薬などあるはずがない。
 なぜ、厳重に審査された薬の副作用がそのことによって苦しむ患者が明らかになるまで余り専門家の中で論じられなかったかについて論じる前に、今私の日常的に経験している薬の副作用について紹介しておく。なぜ副作用は見過ごされがちになるかの背景の一端が分かってもらえればと思う。
 以前も紹介したアルツハイマー型認知症治療薬、アリセプトにまつわる話である。無意味な躁状態、落ち着きのなさ、易怒性、介護抵抗、昼夜逆転、頻尿、尿失禁、便失禁、よちよち歩きの歩行障害、転倒の繰り返し、歩行不可、前胸部の不快感などを訴えるアリセプト服用患者によく遭遇する。そして不穏などの精神症状には大抵向精神薬が投与されている。頻尿・尿失禁には頻尿/過活動膀胱治療薬が、歩行障害には抗パーキンソン薬が必ず投与されている。私の施設では先ずアリセプトの投与を中止して、上記の症状の変化を注意深く観察する。おおよそ9割以上の患者で向精神薬、頻尿治療薬、抗パーキンソン薬の投与を中止しても患者を苦しめていた精神症状、膀胱症状、歩行障害が改善する。認知障害の悪化によってもこれらの症状が出現してくるが、アリセプトを止めると症状が改善するので私は上記の症状の一部はアリセプトの副作用と考えてよいと判断している。
 重度のアルツハイマー患者に通常の投与量の倍量のアリセプトを投与して重度のアルツハイマー患者の認知機能の進行を遅らせるというデータを出しておられる認知症領域の高名な先生とお話しする機会があった。アリセプトは易怒性などの精神症状、歩行障害、膀胱症状あるいは洞不全症候群・弁膜症などの心疾患がある患者には投与しないか慎重に投与するよう学会から見解を出していただきたいとお話したら貴重なご意見は賜りましたと言って頂いた。しかしその後アリセプトの投与基準が臨床の現場で変更された気配はない。今や90歳過ぎて言語的コミュニケーションや人物認識ができなくなり、認知障害の進行がモニター出来ない認知症患者でも、アリセプトが特効薬のごとく投与されている。アリセプト服用患者は増えるばかりの印象である。そこで以下の文をアリセプト患者の家族に渡すことにしている。これが私だけの独断だと非難されないよう、薬屋の副作用情報もコピーして渡している。
                  
               アリセプト服用上の注意点
 アリセプトはアセチルコリン分解酵素を阻害して体の中のアセチルコリンを上昇させて色々な薬理作用を発揮させる薬です。アルツハイマー型認知症の認知障害の進行を遅らせる働きがあると言われ、認知障害の進行をゆっくりさせる薬としてよく使われます。認知症を改善する薬ではありません。アルツハイマー型認知症はがんと同じで必ず悪化していくことは知っておいてください。
 アセチルコリンはアルツハイマー型患者の認知障害の進行をゆっくりする働きと同時に下記に書いてあるような色々な副作用があります。アセチルコリンは迷走神経を介して心臓の動きをゆっくりさせたり、消化管の働きを高めたり、尿失禁や便失禁を引き起こしたり、コリン作動性神経細胞に働いて歩行障害を引き起こすことがあります。また脳の記憶回路に関係する脳の感情を司る脳の神経細胞に働いて怒りっぽくなったりします。
アリセプト服用中に
1.前胸部不快感、不整脈の出現
2.過食、過剰の唾液
3.尿失禁、頻尿、便失禁
4.転びやすくなる、歩行がスムーズでなくなる
5.落ち着きがなくなる、怒りっぽくなる、介護に抵抗する、暴力を振るう  昼夜逆転で夜眠らない
このような症状がみられた場合、アリセプトを中止すると改善することが多い。主治医に症状を言って、アルツハイマー型認知症の診断根拠とアリセプトの投与の意義を話し合って下さい。

 患者の家族は服用後にこのような症状が出たと納得されるが、主治医のところに戻ると同じ処方が切られてくる。その上アリセプトの副作用を取る薬のほとんどに抗コリン作用があって認知障害を悪化させる可能性がある。仕方なく私どもで預かるときのみアリセプトを中止している。勿論抗コリン作用のある薬は認知障害を悪化させる可能性があるので中止する。
 素人の方が聞いたら血液学の専門の君が認知症の専門家の判断に異議を唱えるのは出過ぎたことだと呆れかえられるかもしれない。しかし認知症の専門家と違って私たちは短時間に患者を診たりしない。24時間最低1週間は患者を診て結論を出している。私は私の見解を変えるつもりはない。いや私の基準でアリセプトを中止すると、変な症状はほとんど取れて多くの方が元気になられる。
 なぜ10年以上臨床の現場で広く使われてきたアリセプトの副作用が余り論じられないで現在に至ったのか。糖尿病の新薬Jの副作用が発売前になぜもっと丁寧に論じられなかったのか。この背景には同じ問題が横たわっている。製薬業界には本来の使命よりビジネスを優先させる環境があるのであろう。それに力を貸しいる人たちがいるのであろう。
続く
老人ビジネス
薬の副作用を見落とすのは医師の責任である
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by rr4546 | 2010-05-24 18:20 | 医療関係 | Comments(0)
 「Medical Tribune」という医師向け週刊情報誌がある。役立つことが多いので愛読しているが、手元にある5月6日発行号を開くと最初のページに「いま、新しい2型糖尿病治療が始まる」とうたって、SU薬との併用で重篤な低血糖発作を起こしたとマスコミなどでも伝えられたDPP-4阻害薬の全面広告が2ページにわたって載っている。そして各ページに新しい降圧剤と銘打って1.親和性ARB/持続性Ca拮抗配合剤R(2ページ)、2.持続性ARB/利尿薬合剤P(2ページ)、3.選択的ARB/持続性Ca拮抗薬合剤E、4.高親和性ARBO、5.持続性ARB/利尿薬配合剤E、6.胆汁排泄型持続性ARBM、7.世界初選択的アルドステロンブロッカーS、8.長時間作用型ARBI、9.持続性Ca拮抗薬/HMG-CoA還元酵素阻害剤Kと最近大手の製薬会社が販売に力を入れている9種類の降圧剤の宣伝が載っている。高名な大学教授が顔写真入りで「・・・は優れた治療選択肢の一つと言えます」と宣伝に一役買っている。素人の方が見たら次々と新しい治療薬が市場に出て患者の福音となっていると思われるであろう。
 ただ糖尿病領域も高血圧領域もこの十年間、新しい機序の新薬は今回副作用騒ぎのあった糖尿病治療薬DPP-4阻害薬と高血圧治療薬レニン阻害薬だけである。10年振りに上市された薬のことについては後述する。
 ともあれ数十ページの医療週刊情報誌のほぼ各ページに新薬と称する降圧薬の宣伝が踊っている。高血圧患者が巷にあふれているので、高血圧治療分野は製薬会社にとって魅力的なビッグマーケットなのであろう。患者さんがみたら新しい治療薬を、自分にも早く処方されればと思うかもしれない。いや臨床の現場、特に名の通った大病院では上に紹介した薬がもうすでにかなり広く処方されている。
 しかしこれも素人の方が聞いたら吃驚されるであろうが、ここに紹介した9種類の降圧剤は新薬ではない。実は高血圧治療薬は高血圧を招来する機序がほぼ解明された数十年前にその成果をもとにして、すべての機序を介する高血圧治療薬が開発された。RA系と呼ばれる血圧維持機構のあらゆる段階の阻害薬、血管の収縮に関わるCaに対する阻害薬、交感神経を遮断するブロッカー、循環血液量を減少させる降圧利尿剤とあらゆる機序を介する降圧薬が市場に出された。血圧を下げるだけでは優劣が決め難いので、今は血圧を下げることと心、腎ときに脳の臓器保護作用を持つかどうかが競われて、熾烈な販売競争が繰り広げられている。私が医師になったころは副作用があって現在は使われていないレセルピン、アルドメット、そして今でも使われている降圧利尿剤フルイトランしかなかったことを思えば今の降圧剤隆盛の時代は隔世の感がある。
 既存の作用機序の違う薬を抱き合わせて新薬として売り出す。おかしな現象が出てきた背景には2010年には降圧薬のほとんどが特許が切れることがある。特許が切れれば安い後発薬が出て先発薬を開発した製薬会社の売上を打撃する。特許が切れれば後発薬に売り上げが奪われる。そこで考え出されたのが作用機序の違う薬の合剤を新薬として売り出すことであった。いや私はそう理解していると言った方が正しいかもしれない。
 作用機序が異なる薬を従来は症状に合わせてきめ細かく処方していた薬を合剤として一薬にした。私のようなものは朝方高血圧には夜に投与したり、降圧利尿剤のような降圧薬は夜間頻尿を招くことがあるので朝方に投与しているが、合剤は患者ごとのきめ細かいさじ加減は許されない。こちらだけの作用機序の薬を半分にしたいと思ってもできない。合剤はそういう意味でもまことに使い勝手の悪い薬であるが最初に紹介したように広く臨床医に読まれている医療情報誌にこれこそ新しい画期的な降圧剤とうたって宣伝されている。
 合剤を推奨する高血圧の専門家のコメントを見ると驚く。日本人は食塩摂取が多くて高血圧になっている症例が多い。降圧利尿剤で食塩を排泄させるこの合剤こそ日本人に最適な薬であると解説している。フルイトランという降圧利尿剤は新薬の20分の1くらいの薬価で、高血圧による合併症の防止効果も高く今でも世界中で広く使われているが日本の大先生たちは、フルイトランはインシュリン感受性を低下させて糖尿病を誘発する、フルイトランは尿酸を上昇させて痛風を引き起こすと説いて、わが国の高血圧治療現場からフルイトランを追放した。しかしそのフルイトランが合剤として登場するとNaを排泄させるので日本人に最適な降圧剤と評価される。冷たい目で見られていたフルイトランも事の次第に驚いているであろう。
 いやいや今回は2010年問題について論ずる予定であった。2010年問題とはビッグマーケットのある降圧薬、糖尿病薬、抗コレステロール薬のほとんどが2010年までに特許切れになることを指す。そして2010年に迎える特許切れ対策が製薬企業の焦眉の問題となっていることを言う。2010年問題を解決するために特許切れの作用機序の違う薬の合剤が新薬として登場するとの面妖な事態が出現した。なんとも厄介な2010年問題である。
 特許切れの薬を合剤にして新薬として販売するもう一つ理由がある。それが「2010年問題」と呼ばれる本質かもしれない。実は製薬業界は糖尿病、高血圧そして脂質異常症と莫大なマーケットを持つ領域で、実に勤勉に医学的成果を取り入れて現在考えられるあらゆる作用機序をもつ薬を作り出した。以前は特許切れになるころは次世代の薬を世に問うことができた。しかし成人病関連の疾患で今後特別なブレイクスルーがなければ新薬が出ないというのが専門家の予測である。彼らは10年前以前に考えられる薬を開発し尽くした。特許が切れるが新しい薬の開発の方向性が見えない。製薬業界はこのようなジレンマを抱えて2010年を迎えた。この製薬業界の八方ふさがりの状況を2010年問題という。特許切れの薬の合剤で新薬の装いをするような販売戦略を思いつく賢明な会社人間もいるのである。
 こういう高価な薬の販売を老人ビジネスと呼ばないわけにはいかない。私たちは不必要な薬代を払わなければならないのだから。
 さらにわが国にとって由々しき問題は、2,3種類の薬を除いて他の薬は外国の製薬会社の開発した薬ばかりを取り扱っていることである。日本の大手の薬屋は製造販売と称しているが自社製品を殆ど持たないで2010年を迎えなければならない。わが国の製薬会社の売上高は1、2社を除いて、外国製の薬の売り上げで営業利益を上げている。世界のトップ製薬企業は自社開発の薬を、日本の大手に分散して販売させて、売上高が自社だけに偏らないよう実に巧妙な販売戦術を取っている。薬代の多くは日本の製薬会社に入るより外国企業の製薬会社に入っているのではないだろうか。その実態は私のような門外漢にはよくわからないが、日本発の薬で莫大な利益を上げたのは降コレステロール薬であるスタチン製剤とインシュリン抵抗改善薬チアゾリジン誘導体だけであろう。その他の薬は自社開発をうたっているが基本特許は外国企業にあるか、日本だけで販売されている薬だけである。外国で薬効を調べたら効果が認められなかったという薬である。私たちは特別な体質を持っていて、外国人には効果がないが私たちにはよく効く薬があるのであろう。
 日本は携帯電話でもみられるようにガラパゴス進化と言って世界標準を目指さないで、日本独自の発展を遂げてきた。製薬業界についてはガラパゴス進化どころか、外国企業の開発力を頼りに、生き残りを図っているように見えなくもない。この儲けが日本独自の進化のために使われていれば私たちも忍耐を持って彼らの出す成果を待つべきであろう。ただ私からみると得た利益を新薬開発に投資しているかどうか疑わしい。変な所に使いすぎている。いや新薬の開発は前にも書いたようにここ当面はないというのが専門家の見たてである。ビッグシェアを占める新規薬は出ないだろうとの大方の見方を乗り越える体力がわが国の製薬会社にあるようには思えない。
 貴重な薬を開発すると称して提携先の同業者の薬を売って利益を上げているのを敢えて老人ビジネスの一つと呼びたいと思う。老人の杞憂を言い添えておく。現在提携先企業の薬で莫大な利益と税制上の優遇処置を受けているわが国の製薬会社は、近い将来特許料が得られる新薬ではなく、後発薬の製造・販売で生き残るか外国企業の代理店になる道を歩いているように見えて仕方がない。
 今回は2010年問題と言って2010年に多くの有用な薬の特許が切れることと、当面新規の薬は登場しないということを紹介した。このような状況ではちょっとした衣替えで新薬まがいの顔をした薬が市場に出てきて、油断をすると高価な薬を飲まされる羽目になる可能性があることを指摘した。将来性のないビジネスに貴重な医療資源が使われるということが起こりうる。老人をターゲットにしたビジネスの本態を見抜く眼力を養わなければよき高齢社社会を作るのは夢のまた夢であろう。私たちはよほど賢くならないと豊かな老後は迎えられないと思う。
 品のない話で申し訳なかった。
続く
 新薬でなぜ副作用が出るのか?

by rr4546 | 2010-05-15 08:11 | 医療関係 | Comments(0)