医療に関する意見、日本人のあり方に関する意見


by rr4546
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

超高齢者社会の医師の役割 No6  SIBスコア変化量の誤読―意図的あるいは無能力? オレンジレジストリに期待する

メマリーは全般的臨床症状評価(CIBIC plus-J, 本間昭他:老年期痴呆の臨床評価法―変化に関する全体的評価とサイコメトリックテストー. 老年精神医学雑誌 101932291999)ではplaceboと比較して有効性が全く認められなかったが、 SIB scoreの変化量から、進行を有意に抑制する成績が得られたとして、抗認知症薬として上市が認められ、現在広く使われている。

治験をまとめた論文で示されているSIB scoreの変化(前回のBLOG参照)から有効な薬だと権威たちが判断した問題点(一部は前回も触れた)を指摘しておく。

SIB scoreは前回のBLOGで示した社会的相互行為、記憶、見当識、注意、実行、視空間能力、言語からなる40項目の検査から導き出される。メマリー投与群では桁数範囲、聴力・視覚範囲の注意領域、箸などの使い方の実行領域、色合わせや形合わせの視空間能力そして名前を書くあるいは物品呼称などの言語領域でデータ上から進行の有意な抑制が認められた(前回BLOG図2)という。

対象群は不適切な着衣などの失行、尿・便失禁、入浴などの日常生活活動(ADL)の低下、発語の低下などが認められる中程度から重度の進行stagingAlzheimer型認知症患者である。これらの患者にとってSIB scoreの変化は、臨床的効果に全く結びつかないことを、CIBICのデータから読み取れることは前回詳しく述べた。

中等度以上のstagingの認知障害に基づく症状の進行の程度を正確に判定できるかどうかの議論をおくとしても、このような患者を一番困らせるのは家庭生活が自立して送れないという障害である。

私は認知症を認知障害起因性生活障害病と呼ぶべきであると主張しているが、このような患者にとって治療の対象とすべきは社会的相互作用の低下や見当識障害であろう。

残念ながら社会的相互作用や見当識についてはSIB評価ですらメマリーは全く有効性を示すことができなかった(前回BLOG図2)。治験で使われたCIBIC評価での下位項目であるADLを示すFASTスコアや、中核症状をみるMENFISでも有意差のある効果は全く認められなかった(第一三共製薬提供 メマリー総合製品情報概要 p18 FASTスコア変化量の推移 p19 MENFISスコア変化量の推移)。

SIB scoreのメマリーがいかにも有効であるとのscoreの変化は、臨床的に有効であることを示すのではなくて、データ上のデータの変化に過ぎないことを再度強調しておく。

しかし著者らは患者にとってほとんど意味のない項目で得られたSIB score変化の有意の差だけで、メマリーを中程度以上の認知症の症状進行を遅く薬と結論付けた。私には製薬会社の販売に利するために、権威たちが権威のご威光を使って、データだけの見掛けの効果(一部は副作用の可能性があると、私は思っているが)を使って、メマリーの治療薬としてのお墨付けを与えたようにしか思えない。臨床的に意味のないSIB scoreの変化量に過大な意義を与えたのは、患者を治療しようという認知症専門医の本来の役目から逸脱した、製薬会社だけに好都合な解釈を提供する御用医師の仕業という他ない。権威たちにとっては、患者に本当に有効かどうかは興味がないのであろう。

このような権威たちの無責任かつ無能力からくるデータ解釈を十分吟味しないで、そのまま信じて多くの医家が、現在もメマリーを認知症の進行を遅くする薬として患者に投与している。効いた効いたという権威のほら話に何も勉強しないで従順に従って、漫然と投与している実地医家にも責任の一端があるであろう。嗚呼!

このような恣意的ともいえるデータの誤用は、メマリーの副作用があたかもplaceboと違いがなかったとの論文での記載でもみみられる。暇があったらその点についても触れる。

彼らの論文での考察は、SIB評価で得られた効果がCIBICで認められなかったことだけに力が注がれた。その考察もピント外れであるが、このことについても暇があったら指摘する。興味のある方は論文を直接読んでいただきたい。驚くべき言い訳をしている。

彼らがSIBでみられ項目について、グルタミン酸の細胞内への刺激伝達抑制との関係で考察していれば、認知症患者の中枢神経細胞でのグルタミン酸の働きの一端を明らかにすることができたかもしれない。

結論を言っておく。中村・本間らの治験のdataをまとめた原著論文「新規NMDA受容体拮抗剤であるメマリーの中等度から高度アルツハイマー型認知症に対する第Ⅲ相試験ー有効性および安全性の検討ー」(老年医学雑誌 22:464-473,2011)は、メマリーがAlzheimerの治療薬として、安全で有効であることを示したのではなく、メマリーはアルツハイマーの病状改善に全く無効で、SIBで得られた成績から、中枢神経に何らかの副作用を生ずる可能性があると結論づけるしかない。

同じ論文から真逆な結論が得られる。そして副作用がある薬が、抗認知症薬として保険診療上使えるようになった。一体何が起こっているのであろうか。嗚呼!

ヘボ医者ががーがー言っていても問題だらけの認知症医療現場は変わらない。

現在国は認知症専門医を総動員して認知症患者の適切な医療・ケアの確立を目指した認知症患者らの登録・追跡をするオレンジレジストリと呼ぶ研究を展開している。(鳥羽健二:オレンジレジストリと認知症研究. 日老医誌 56:97-106,2019) この研究は23年前から始められている。オレンジレジストリから診断から治療にわたる現在の認知症医療の問題点が明らかにされるのを待ちたい。今までの登録研究から抗認知症薬の問題点くらいは指摘されていいと思うのだが。

念のために書いておくが、中程度から重度のAlzheimerには高容量のドネペジルとドネペジルとメマリーの併用が、保険診療上認められている。処方した医師や、処方された患者から何かおかしいという問題提起はないのか!


by rr4546 | 2019-06-05 15:17 | 医療関係 | Comments(0)