医療に関する意見、日本人のあり方に関する意見


by rr4546
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改訂超高齢社会の医師の役割―認知症と死の看取り No1

超高齢社会のcommon diseaseと言えば認知症と死の看取りを上げることができるであろう。今回は認知症医療について日頃感じていることを書いておきたい。

実地医家は認知症と言えば、ほとんど鑑別しないでAlzheimer型認知症と診断して抗認知症薬を投与しているのが現状である。筆者は臨床的特徴から典型的なAlzheimer型認知症は現在考えられているよりはるかに少ない印象を持っている。認知障害を来しているおおよそ10%位がAlzheimer 型で、あとは超高齢者、とくに80歳以上で発症した認知障害患者の多くは高齢者タウオパシーと呼ばれる嗜銀顆粒性認知症などと診断するべき臨床的特徴を有している。脳血管性認知症、Pick、Lewy, 進行性核上性麻痺、大脳前庭基底核変性症、タウオパシー、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、甲状腺機能低下症、詐病などが鑑別できなければ、診断は難しい。認知症は色々なタイプがあるが認知症医療現場ではほとんど真面目に鑑別診断されていないことを指摘してきた。認知症の鑑別診断をもっと厳格にしなければ、認知症の本体に迫れないだけでなく、認知症の医学的な究明が曖昧のままで、患者に多くの不利益を与える。超高齢社会のcommon diseaseである認知症の医学的かつ科学的な研究を真面目にすることは医師の大切な務めである。

その上大部分の認知症患者は安易にAlzheimerと診断されて、漫然と抗認知症薬が投与されている。年間1000億円を超える医療費が健保組合から支払われている。このような莫大な費用に見合った福音が認知症で苦しんでいる患者にもたらされているか全く検証されていない。

超高齢者社会の時代に働く医師はcommon diseaseに一つである認知症について、診断と治療についてもっと真剣に取り組むべきである。

抗認知症薬の有用性について、治験データの科学的解析から、あまり期待できないことを論証した「科学的認知症診療 5 Lessons」という医学書を上梓された小田陽彦博士のFACE BOOKに投稿したコメントをまとめておく。

確かフランスで抗認知症薬が公的医療保険でカバーしなくなったとのFACE BOOKへのコメント

日本老年精神医学会の理事長新井平伊先生は、同じ趣旨の朝日新聞の記事の中で、「・・・・ただ、薬を自己判断でやめると症状が悪化する恐れがある。抗認知症薬は病気の進行を1年ほど遅らせることができ、薬がなかった以前と比べればそれなりの価値はある. どう使うかは主治医とよく相談してほしい・・・・」と述べたと報道された(水戸部六美、編集委員・田村建二)(朝日新聞Digital623日)。認知機能は記憶・遅延再生・判断・遂行機能・視空間能力などの脳の総合的働きをいう。薬効を見るために、単語再生・口語言語能力、言語の聴覚的理解、自発語の喚語能力などの患者にとっては全く無意味な下位の認知機能をバラバラにした項目別への影響をみた治験データ(ADAS,SIBなど)の誤読から、今でも認知症専門医の間で当たり前のこととして受け取られている理事長のおっしゃる抗認知症薬の有用性に対する信仰が生み出されたのだと思う。例えば単語再生がいくら改善されても、認知機能の臨床症状が改善することに結びつかない。さくら・猫・電車をいくらスムーズに言えるようになっても軽々に認知症症状の軽減とは判断してはならない。認知機能への影響を論ずるなら、全般的な認知機能を見る全般的臨床上評価(CIBIC)を参考にするほかない。ほとんどが偽薬と効果に差がみられなかった。それにしても、赤字を嘆いている健保・国保の支払基金が、抗認知症薬の支払いを気前よくする事情がよく理解できない。支払われる金額を見よ!一日も早く抗認知症薬の副作用で苦しんでいる人たちに眼を向けるべきであると思う。妄言多謝。それにしてもフランス医療界が出した結論を、自分の思い込みで握りつぶす。我が国の認知症の権威たちの矜持と倫理観はどこにあるのだろうか。マスコミも患者の側に立った情報を出さない。トランプがマスコミをfakeと批判するはずだ。薬屋サイドに好都合ながさネタを垂れ流すのはいつも同じ編集委員である。ばれていないと自分だけが思っている。

小田博士が日本神経精神薬理学会で発表されたスライドを公開された1117日付けFACE BOOKへのコメント。

同じコメントばかりで恐縮ですが、抗認知症薬の副作用についても専門医の間で大いに議論できるよう頑張ってください。精神症状(不穏・介護拒否・無意味な多弁・目的のない多動等)の多くは、抗認知症薬の副作用だと思います。その証拠に、抗認知症薬の根拠のない面妖な少量投与が多くの実地医家に支持されている。少量投与で、抗認知症薬の副作用が取れたのを、よくなったよくなったといっているだけである。国も根拠のない少量の健康保険診療を認めている。認知症になった重荷や、薬害まがいの副作用で病状を複雑にしたり、苦しめたりするのを少しでも軽減できるのは、認知症専門医しかできない務めです。Pick(前頭葉側頭葉認知症)に抗認知症薬を投与すると最悪です。結構多い。

小田博士の御著書を丸太町病院の先生がとてもいい本だと激賞されている推薦文の紹介に対するコメント

丸太町病院の先生のコメントに目を通すだけでも、認知症医療現場が少しはまともになる。1000億円以上の薬代を使って、意図せず薬剤まがいの副作用で患者を苦しめて、認知症をややこしくしている認知症医療現場を放置するべきではない。


5人に1人が認知症を患うことになると予測されている超高齢社会での医師の役割についてはすでに原著論文と自著で7年以上前に提言している。

1 診断や薬物療法の効果については権威たちの助言を信頼しないこと。急性期病院や特定疾患指定病院で診療に当たっている自称認知症専門医は、患者を丁寧に診ていない。診る時間がない。私たちの時代、とはいってもほんの10年前はボケにつける薬はないと、当時痴呆と呼ばれていた患者の診療は私を含めてすべてのに医師に敬遠されていた。現在でも、自称認知症の権威たちが、診断をしたところで、脳の退行変性疾患であるこの疾患は確実に病状が悪化する、しかも数年単位で、こんな疾患に興味を持ち続けているとは思えない。認知症患者が年余にわたって、いわゆる最先端の医療を行う病院で治療を受けている症例を私は知らない。彼らが診ていたのは抗認知症薬の治験の時だけであろう。現在は診断と投薬処方をつけ次第、実地医家に紹介しているだけである。従って家族のほうが患者の病状をよく知るようになった。権威を信頼して、情報をもらうマスコミが流す情報はfakeにならざるを得ない。そのあたりの事情を熟知している製薬業界が権威やマスコミや手玉に取る。このような状況を一時も早く改善しなければならない。

2多くの認知症患者を実際見ている医師たちの意見を活用すること。私は数年前に以下の原著論文と著書で認知症患者の対応について提言しておいた。当時はドネペジルだけであったが、現在他に3剤が保険適用になっている。2年ほど前それらの新しい薬についても、著書の補遺という形で触れた。認知症患者に対する医師の役目についてそれらに加えることは何もない。

寮隆吉:認知症患者の周辺症状に対する薬物療法ー介護施設の出の試み。 京都医学会雑誌 56:57-62、2009

寮隆吉、竹村真一、高橋雅人:改変センター方式を用いる介護による認知症患者の対応。 京都医学会雑誌 58:71-76、2011

寮隆吉 症例から学ぶー高齢者疾患尾特徴とその対応。 認知症 p25-41 金芳堂、2011

寮隆吉 上記著書に対する補遺 アルツハイマー型認知症治療薬  アルツハイマー型と誤診される疾患 金芳堂 2016

死の看取りについてもほとんど真面目に国民的議論が行われていないのではないだろうか。118NHKスペシャル「100年時代を生きる―命の終わりと向き合うとき」を見て驚いた。延命治療についても国民全体で真面目に考えなければならない。

医療は病気を治してあるいは進行を抑えて、普通の生活に戻す役割しかない。90歳過ぎて認知障害を来している患者が拘束されて人工透析を受けている現場が映されていた。医療技術があるから、機械のように無感情で何も医療目的なしで医療技術を駆使する。透析の医学的適応が十分議論されているのであろうか。

人工呼吸器はなんらかの理由で呼吸が障害されて、呼吸ができないという急場をしのげば自発呼吸が開始される場合に、呼吸を一時的に補助する目的で開発された医療器具である。癌の末期で呼吸が弱くなったからと、自発呼吸の再開が医学的に全く期待できないのに人工呼吸器を装着している現場に対して抱く違和感と同じ違和感を強く感じた。

また意識障害で運ばれた患者に、人工呼吸器を装着するかどうかを、若い医師が家族に決めてくださいと淡々と説明していた。身内が死に瀕するという経験は、大抵の方にとってはあっても一度か二度のことであろう。私のようなやぶ医者でも死の看取りをしたのは三桁はいかないが二桁はある。どの症例も記憶に残っている。初めての経験で動揺している家族に、死の看取りに数多く立ち会った医師が無感情にいかにも患者第一のようなふりをして、医療処置をどうするかを決定するよう迫る。死の看取りを素人の方より数多く経験している医師が、御用聞きのように淡々と看取りの医療処置を勧めているのにも驚かされた。医師としての助言はないのか。自分の専門性を蔑ろにしている。

次回は死の看取りの際の医師の役割と医療処置はどうあるべきかについて論じたい。


Commented by 小田陽彦 at 2019-04-26 21:07 x
 厚労省の患者調査によると平成8年において医療機関で血管性及び詳細不明の認知症と診断されたのは9万人、アルツハイマー病が2万人なので”認知障害を来しているおおよそ10%位がAlzheimer 型”というのは概ねご指摘の通りだと思います。アリセプトが発売された平成11年以降は、アルツハイマー病と診断された人数が爆発的に増加しており、平成29年は56万人になっていますが。
by rr4546 | 2018-11-21 19:09 | 医療関係 | Comments(1)