医療に関する意見、日本人のあり方に関する意見


by rr4546
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寄り道 ADASとSIB 非公開データと著作権 No3 認知症薬は何を改善させるているのか?

認知症の認知機能は大雑把にいえば障害された脳の機能である記憶、人格、言語そして視覚の異常な症状、これを中核症状というがそれらを調べる検査、侵された脳を介する情報処理の異常や遂行機能異常で生じる不穏、妄想、介護拒否などの行動ならびに心理的な異常、これを周辺症状(BPSD)というがそれらを調べる検査そして日常生活活動(ADL)の3領域について調べるのが一般的である。
いろいろある検査の中で、中程度から重度の神経心理学的な認知機能の評価に用いられるのが前回に紹介したSIBである。メマリーもアリセプトも中程度から重度のAlzheimer型認知症(AD)患者に対して、SIB検査をすると投与後症状の進行が緩徐になるとの効果が認められたと治験で示された。その成績をもとに、健康保険診療上中程度から重度のAD患者の進行を遅くするために投与できるようになった。
SIBは40項目100点満点の検査で、神経心理学的な37項目の領域別評価(この論考では検査項目の詳細を下位項目と表現したが、正確な表現ではなかった。今後は領域別と下位項目を正しく分けて使う。ただSIB検査の下位項目といったほうが私には理解しやすい。わかりやすい方を使う場合があることを前もってお断りしておく)と挨拶への反応、会話といった他者評価の3項目からなる評価で、認知機能が低下しているほど得点が低く出る。実地医家で一般的に行われる認知機能テストであるHDS-RやMMSEが30点満点で評価されるのに比べると、100点満点評価検査は多岐にわたる複雑な検査であることが想像される。
参考のためにSIB-Jの評価領域の項目だけを挙げておく。社会的相互行為(3項目)、記憶(7項目)、見当識(3項目)、注意(3項目)、実行(3項目)、視空間能力(3項目)、言語(24項目)、構成(2項目)、名前への志向(1項目)である。実地医家が片手間にできない。
アリセプトもメマリーも投与4,8,12,18,24週後のSIB検査で算定された総点数で、効果判定が行われた。二つの薬は患者が喜ぶ認知機能全般を改善させるのではなくて、評価領域の特定の領域の点数が投薬群で進行が有意に緩徐になったというだけである。24週後の領域別の成績を示す(図1,2)。
これらの領域項目が改善したからといって脳の機能の破たんが複雑に絡み合って出現してくる認知症状が軽減したと言えるのだろうか。事実有意に改善した項目だけでは、主治医が認知症薬の臨床的効果があるとの印象を持つことはない。薬が効いたと感じないのである。CIBIC検査の成績を見よ。
領域別の改善と、認知症患者の多彩な病状の改善を同じように論じていいのかどうか、是非専門医の間で真面目に話し合っていただきたい。認知症薬に求められるのは、一部の個別の領域の改善ではなくて、認知症状の全般的な改善である!
SIB検査の詳細を知らなければ、中程度から重度の認知症患者のどの領域の増悪が薬の投与によって緩徐になるのか臨床的にはわからない。処方した薬がどのように働いているか現場ではチェックできない。
そこでSIB検査の詳細を、アリセプトを販売するエーザイとメマリーを販売する第一三共製薬に問い合わせた。驚くことにSIB-Jには著作権がありその内容は教えられないという。著作権者に直接あたるから著作権者を教えて欲しいと交渉したらエーザイはSIB検査を開発したPanisset(Panisset M et al.  Severe Impairment Battery A neuropsychological test for severe demented patients. Arch Neurol 51、41,1994)博士が著作権者だと回答してきた。日本版SIBの著作権者はと重ねて春ごろ問い合わせたが現在のところまだ回答がない。第一三共は著作権者についての情報が社内にないが、SIB日本版の筆頭著者新名理恵(新名理恵他:SIB日本語版およびADCS-ADL日本語版の信頼性・妥当性・臨床的有用性の検討.  老年精神医学雑誌 16:683、2005)博士が持っておられるのではないかとの返事であった。しかし上記の論文中「SIB-Jは版権・著作権保護のため、両測度の項目を本稿に記載することは控える」(同論文 p685)と述べられている。どのような基準で領域別の点数が算定されたか、ブラックボックスのままである。
薬の効果を検討した検査法の詳細が公開されていない。実地医家の先生は、効果の内実を知らないまま、薬屋に言われるまま効果があると信じて、処方されているのであろう。
薬の薬効について、このような摩訶不思議なことに遭遇したのは初めてである。SIB-Jの詳細を知らないで、投薬後の患者の効果判定をどうされているのであろうか。どのような基準で投薬を続けるべきか中止するべきか決めておられるのであろうか。患者や家族に薬の効果をどのように説明しておられるのであろうか。判らないことばかりである。
認可のための治験を行った時は、SIB検査の進め方や採点方法について詳細に医師に紹介したはずである。その仕方が公開できない。医療という科学的な証拠に基づいて進められる分野で、オカルト集団(?)が出したエビデンスを無条件に信頼して医療に取り組む同僚がいる。ほとんどの実地医家がそうしているといってもいいかもしれない。実態を知ると戦慄すら覚える。
念のためにSIB検査の内容を問い合わせる医療関係者はいないのかと聞いたが、私の担当者は先生のような細かいことを問い合わせる同業者はいないとのことであった。
認知症患者を診ている医療関係者は認知症患者の症状は一定ではなく、日ごとに中核症状やBPSDが微妙に変化することを知っている。HDS-Rのような簡単なスクリーニングテストでも実施する日によって異なった評価の点数が出ることが稀ながらあるし、また検者毎の再現性も必ずしも良好ではない。わたしの周りの者が技術的に低いレベルで、評価にばらつきが出るのかもしれないが。
それにも拘わらず、薬品情報には投与4,8,12,18,24週後毎の全領域の総スコアの経時的変化が偽薬群に比較して薬投薬群でいつも良好な結果(図3,4)を示す結果が示されている。この経過表をみると、飲ませなければ大変だとすべての医師が動機付けられるであろう。製薬会社の戦略通りに事が運ぶので、製薬会社自身も内心は驚いているのではないだろうか。なにも理解しないまま副作用を無視してせっせせっせと処方している可能性は否定できない。
この成績が正しければ、投与後の領域別の経時的変化でも同じ領域に効果がみられるのではないか。同じ領域で効果がみられれば、投与後その領域に注意を払い、SIBのような煩雑な方法で効果を調べなくても、臨床的観察で効果がfollowできるのではないかと、SIB検査のトータルの点数ではなくて、領域別の投与後の成績を問い合わせたところ、エーザイ(アリセプト)と第一三共製薬(メマリー)両薬屋とも最終24週後のSIB検査の項目別の有意差検定の成績しか持ち合わせがないとの返事であった。あとは非公開データということであった。
投与4,8,12,24週後の領域別の効果は一定の傾向がみられるのではなく、ばらばらの可能性があることを心配して問い合わせたのに。治験を行った権威たちは効果があるようなデータに本当に同じ傾向の効果がみられることに注意を払ってデータを解釈したのであろうか。
4,8,12,18週にも24週後と同じようにSIB検査の点数がはじき出されている。当然どの領域に悪化の程度が緩徐になったかの解析が行われているはずである。行われるべきである。24週後の領域別の有効性のデータはあるが、4,8,12,18週後の領域別のデータは非公開データ!一体これはどういうことか。
治験での効果判断にはかなり予断がはいっていて、臨床的に有効だと言えないデータであることを知りながら、有効だという結論を出したとの危惧をぬぐい去ることができない。捏造と同じような悪質な恣意的判断が、治験データ解釈に施されたことはありうるのではないか。再現性のあるデータが得られなかったのではないか。私たちが行うスクリーニングテストで経験することと同じことがあったのではないか。
改善する項目が経時的に同じであれば、そのことを薬の効果の特徴として強調できる。処方する医師も本当に効果があると自信をもって投与ができる。
薬屋の対応を見ていると、投与後経時的に投薬群の悪化が緩徐になったとの成績は一定の領域にいつも見られた成績ではない可能性が否定でいないと感ずる。ゲスの勘繰りであればよいが。
そして薬品情報に印象的に示されているデータに何か作為が施されたのではないかとの疑いは晴れなかった。
実際そのような重要なデータを公開できないのは会社側の手落ちであると、責任者の自筆の署名のある書類を求めたところ、実際送ってきた薬屋があった。その手紙はfileに保存してありいつでも公開できるが、誠実に自分どもの非を詫びて自筆の書類を送った人の名誉のために今回は公開を見送る。
治験で出されたSIB評価で得られた効果はわたしたちには追試できないことになっている。認知症薬は一体どこに効いているのであろうか。
中程度から重度の治療目標についてもう一度真面目に議論する必要があるであろう。効果がはっきり臨床的に確認できない薬に副作用を無視して過剰に頼るのはよくない。
医学という科学的な方法で効果が検討されるべき分野にまだカンで効果ある、効果なしと評価が行われている可能性が極めて高い。
実態に即さない認知機能テストで得られた成績で、認知症の専門医が認知症薬に効果があるあるといって歩くので、効果判定も全くされず、副作用にも注意を払わないでがばがばとアリセプトとメマリーが使われているのであろう。
私が効いたと判定するので私の治療方針に従いなさいという教祖様が現れれれば、医学的検証なしで最高の教育?―私はそうは思わないがーを受けたと一般に信じられている医師の中に多くの共鳴者が驚くほど現れるのであろう。それにしてもいかにも効きそうな図だな。大企業が燃費をねつ造するしな。人の命を預かる機関でそんなことをするはずがない。

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by rr4546 | 2016-07-23 06:27 | 医療関係 | Comments(0)