医療に関する意見、日本人のあり方に関する意見


by rr4546
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認知症国際会議  No12 思いつくまま No2 BPSD―焦燥性興奮の治療 BPSDの治療ガイドラインとの比較

症例 N.R. 77歳 女性 
平成22年(72歳)初めごろから、物忘れや、理解力の低下が出現。家政婦として働いていたが、カギを忘れるなどの不都合を来し、7月に仕事を止めた。平成22年9月24日に某医を受診。認知機能テストやMRIの画像所見からAlzheimer型認知症(AD)と診断され、アリセプトの投与が開始された。落ち着かない様子が見られたが、特養のデイサービスに毎日出かけ時々特養のショートステイを利用して、なんとか日常生活を送っていた。平成24年11月のMRI検査で海馬の萎縮が進行しているのでアリセプトをレミニールに変更。同時にメマリーの併用も開始された。変更後も理解力の低下や指示が入らないなどの症状が徐々に進行、同時に家の中をウロウロする不穏、易怒性や昼夜逆転なども認めるようになった。認知症の周辺症状(BPSD)のcontrolのためにセロクエル(25mg)1錠の投与が始まった。投与後も焦燥性興奮は続き、セロクエルは徐々に増量され、平成26年末には5錠、計125mg/日が投与されるようになった。
平成27年春に風邪をひいたあとに、一日中うとうとするようになり、食事や排せつも介助が必要となった。
平成27年6月1日からわれわれの施設にショートステイで入所した。
入所時はベッドに臥床して、傾眠気味でほとんど言葉を発しない。
入所時の持参薬
1 レミニールOD(8) 2錠 2x分
2 メマリーOD(20) 1x朝
3 セロクエル(25) 5錠 (朝2錠 夕3錠)
4 降圧薬3種類、利尿薬、下剤等 計9種類

認知障害は中程度以上と診断されてレミニールとメマリーが併用されたのであろう。BPSDと考えられる不穏、易怒性、昼夜逆転の治療のために抗精神病薬(セロクエル)が投与されたという認知症医療現場でよく見かける症例である。セロクエルの投与量から見ると、不穏などのBPSDはかなり重症であったことが推測される。
それにしても77歳で認知症を患って、セロクエルという本来は統合失調症に使われる鎮静作用の強い薬が大量に投与されているのは驚かされる。わたしもセロクエルをBPSDのcontrolに使うことがあるが、25mg2錠以上使う必要があった症例に9年間-2年前に体を壊して、今は週2回の非常勤勤務と身内のクリニックの外来診療であるがーで経験したことがない。半錠、多くても1錠くらいで効果がみられる。
抗認知症薬を投与してテンションを挙げながら、抗精神病薬で頭をもうろうとさせて眠らせる。セロクエルは肥満を招来する副作用があるが、この患者は身長150cmmで、体重は70kgであった。
なぜこのような処方でAD患者の経過を見るか、わたしのようなへぼ医には理解できない。しかし結構このような投薬治療のもとで経過を見られている認知症患者は多い。
厚労省のホームページに「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン」というBPSDに対する薬物療法の関する小冊子が掲載されている。平成24年度厚生労働科学研究費補助金事業、「認知症、特にBPSDへの適切な薬物使用に関するガイドライン」作成に関する研究班作成とある。参考のために今回の症例に関するところを抜粋しておく。
BPSDに対する薬物療法の進め方
BPSD 幻覚、妄想、攻撃性、焦燥
メマンチン(メマリー)、コリン分解酵素阻害薬(アリセプト、レミニール、リバスタッチ)を使用し、改善しない場合抗精神病薬の使用を検討する。レビーの場合はコリン分解酵素阻害薬が第一選択となる(BPSDへの適切な薬物使用ガイドラインから)。
抗精神病薬はいろいろあげられているが今回の症例で使われたセロクエルは「焦燥、興奮、攻撃性または精神病症状」に適応ありと記載されている。投与量は25-100mgとなっている。この「BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン」に照らせば今回紹介した症例は、権威たちの勧める方法に従って治療をされていた。抗精神病薬の量が多いが。ただ患者は焦燥性興奮を起こした後に寝たきりである。認知症の進行遅延などあったものではない。
今回の症例のような認知症患者への抗認知症薬と抗精神病薬の投与は認知症専門医が推奨していた。主治医もこのガイドラインに従って治療を進めた。そして2種類の抗認知症薬とセロクエル25mg5錠投与になった。ガイドラインに従って患者をしっかり診ないで認知症治療を漫然と行うと、患者を廃人に導く可能性があることを示す典型的な例である。ガイドラインはそれを勧めることを推奨している。嗚呼!
それにしてもガイドラインはおかしい。AD患者のBPSDのcontrolに使うべき薬として挙げられている抗認知症薬を投与しないで、AD患者を診ている実地医家はいるのであろうか。明らかに適応外のボケにも抗認知症薬ががばがばと投与されているのが医療現場の実際である。メマリーやアリセプト、レミニールで治療していて焦燥性興奮をおこした例が大部分であろう。BPSDが出るまで、抗認知症薬を投与しないでボケを診ているドクターに出会ったことがない。それでも不穏にまず抗認知症薬をつかえ??? よほど抗認知症薬を信頼しているのであろう。ガイドライインが真面目に作られていない証左の一つである。権威は苦しむ患者を診ないで、別のところに気を使っている。使うことが勧められている抗認知症薬、抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬・・・、認知症患者の投薬数が増えるはずである。高齢者は薬物代謝の低下や服薬数増加とともに転倒などの副作用があるので、投薬数は4,5種類に抑えるよう推奨されている。ガイドラインはそれに対する配慮もない。
わたしはBPSDの焦燥性興奮の多くの例は、医原病あるいは不適切な介護由来だと診断しているのに。一番に勧められている非薬物療法の詳細を実地医家は全く知らない。嗚呼!
残念なことに、このような投薬治療はBPSDをおこして始末に負えなくなって紹介される地域の認知症拠点病院でも行われている。
廃人に近くするまでには、認知症患者でも時間がかかる。入院期間が長くなるはずである。薬漬けの中で、かろうじてバランスを取り戻していく。医師が偉いのではなく、人間の適応力の強さに感動する。
わたしのBPSDに対する対応は実にシンプルである。
1.認知症患者を扱い慣れた介護士たちと接触させる。患者の気持ちを読み取る一つの方法として、拙著のp32に記載した「私の姿と気持ちシート」を活用する。患者の誇りと希望に最大限に配慮して対応する。
2. 不穏を招来する可能性のある薬をすべて中止する。症状があれば服用中の薬の副作用の可能性を先ず疑うのが、主治医のおこなうことである。頻度が低くても副作用として挙げられていればその薬(抗認知症薬など)は中止する。こういう投薬治療の基本に従わないと、投与する薬の量が増え病状が複雑になる。抗認知症薬は中止すると認知症が急激に悪化するとされているが、それを示す客観的データは乏しい。わたしの経験では焦燥性興奮が軽減すれば、むしろ劇的にADLや認知障害は改善する。当然のことであるが、便秘、頻尿、食欲不振などの身体的不具合があれば、それらに適切に対応する。
3.それでも不穏や攻撃性が残れば、抗精神病薬を投与する。脳細胞が変性・死滅して、多くの場合高齢であることを念頭に置いて、少量投与を心掛ける。脳血管性認知症であればグラマリール3錠/日を投与する。効果がある例は少ないが効果があれば継続する。
アルツハイマー型や前頭側頭葉型認知症の場合は、定型的あるいは非定型的向精神薬を使う。
夜間不穏の場合はセロクエール(25)1錠~2錠、ただ糖尿病がある場合はリスペリドン(1)1錠、時にベゲタミンB半錠~1錠を投与する。介護拒否、理解できない多弁や行動過多、自己中心的な振る舞いにはリスペリドン(1)2錠/日、セロクエール半錠~2錠/日を朝夕に投与する。これらで効果が見られない場合はコントミン(12.5)半錠から1錠を1日3回投与する。レビー小体認知症は幻視、夜間の声だしなどの多彩な精神症状が認められるが、向精神薬に過敏に反応して症状が増悪するので使わない。抗不安薬(デパス)などが有効の場合がある
認知機能を悪化させる抗コリン作用はコントミン、リスペリドンそしてセロクエールの順に低いと言われている。糖尿病や肥満患者へはセロクエールを控える。これ等を念頭に置いて使い慣れた薬を決めて対応する。
4.それでも不穏が残れば、不安の原因を推測しながら抗不安薬を投与する。ほとんどの例で周囲に迷惑をかけるBPSDは消失する。
拙著p39参照。(不眠などの対応でセレネースを推奨しているが一部訂正削除。せん妄に近い不穏に対しては考慮。糖尿病がなければセロクエル1-2錠で対応できる)。

是非私の対応と、権威たちの勧めるBPSDの薬物療法の臨床効果を比較していただきたい。
権威たちのろくに患者を診ないご託宣と、経験も少ないのに劇薬といっていい抗認知症薬や向精神薬を軽々に投与する実地医家たちが跋扈していることが、認知症医療現場を荒廃させている。やれやれ。
ガイドラインの作成メンバーをぜひ知りたい。いや公開するべきである。
役人も現在行っている認知症対策の有効性と問題点を真剣に検討するべきである。魂の入っていないもっともらしい制度で厚化粧をしても認知症患者に何一つ恩恵をもたらさない。荒廃させるだけである。それにしてもテレビに出ていた役人は元気で能弁だったな。その理由も私は推測しているが、バカバカしくて書けない。認知障害の早期の取り組みを制度化しても、わが国では認知症患者は減らないであろう。むしろ不必要な人たちへの認知病治療がますます行われるようになるであろう。カフェを運営している医師が、自分の患者を増やすことに腐心している。
わたしが危惧する試みを認知症の権威がしていることを、横浜の老年学会の目玉である「認知症予防の最前線」のシンポジウムで聞いてきた。聞き間違いでなければMCIに運動療法を行う際、アリセプトを全例投与していると発言していた。コウノメソッドにも同様の記載がある。次回コウノメソッドの問題点を指摘する。嗚呼!
主治医T先生に2種類の抗認知症薬を投与した理由と抗精神病薬を増量していった経過と、ADと診断した根拠を問い合わせている。
認知症医療現場はもっとオープンにして、望ましい介護・医療についてすべての職種で喧々諤々と議論するべきである。認知病棟という認知症患者の専門病棟をもち、多分認知症患者に接触する機会が最も多い老健施設の職員から認知症介護や医療に現在どのような問題があり、今後何を改善しなければならないかについて意見の聴取をしないで、頭でっかちの認知症予防や認知障害患者への早期介入を作り上げてもすべて絵に描いた餅である。今まで積み上げたものの問題点を整理しながら進むしかない。
ユマニチュード、バリデーション、認知症カフェ、みな話題になるのは舶来ものである。わが国独自の方法はないのか。ある。
先日9月5日に私の所属する地区医師会主催で、認知症に得極的に取り組んでいる医師、特養関係者、ケアマネ、家族の会そして区役所の福祉担当部長が「西京区の認知症地域ケア、こんなんでいいんかい?」の討論があるとの案内状が来た。何が話されるか楽しみにしている。9月5日は上田剛士先生の「高齢者診療で身体診察を強力な武器にするためのエビデンス」の2回目の講演会とぶつかるが・・・。7月11日の一回目の医師会館での講演会は盛況だったな。国民病になるとの予測がある認知症関連の討論会で何が話されるか知っておくべきであろう。9月5日の西京区地域認知症協議会のBLOG参照。

by rr4546 | 2015-06-30 22:34 | 医療関係 | Comments(0)