医療に関する意見、日本人のあり方に関する意見


by rr4546
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Evidence-based medicineとValue-based medicine No1 SGLT2阻害薬

親しい友人にいつまであーだこーだと御託を並べているのだ、権威に楯突いているより、もっと大切なことがあるだろうとの忠告である。
ただ3年前に上梓した「症例から学ぶ高齢者疾患の特徴とその対応」で高齢者疾患の治療学を書いてから、高齢者疾患のcommon diseases、認知症、糖尿病、高血圧、看取りなどについて新しい知見が積み重ねられた。このBlogでも取り上げた抗認知症薬の効果、早期診断、糖尿病性認知症、糖尿病の治療目標、超高齢者の血圧管理、終末期の治療などなど。
小生の本を手にされた方に新しい情報を伝えなければ、高齢者が不利益をこうむりかねない。この3
年間のBlogの記事は、自分の本への補遺である。上梓後3年強で、小生の目に留まった成果がこれだけあるとは。やはり高齢者疾患の治療は道半ばである。
数少ない読者の方にではあるが、新しい成果が載っていない本を参考にしてもらうのは申しわけない。記事の多くは、拙著に書き加えなければならない事項ばかりである。筆を滑らせた部分がないわけではないが、幸いのことに指摘したことが正しい治療法であるとの根拠が集積され続けているように感ずる。
それにしても高齢者医療の現場に接していると、しがない老健医には理解できないことばかりである。降圧薬の治験データのねつ造、認知症早期診断(J-ADNI)確立のためのデータ改ざん、インクレチン関連薬による低血糖患者の頻発などなど。
今回は本年4月に新発売された糖尿病新薬SGLT2阻害薬についての話題を取り上げたい。
腎臓には、体の働きに必須である糖(グルコース)や食塩(ナトリウム)を細胞内に取り込むナトリウム・グルコース共役輸送体(SGLT2)タンパクがあって、血糖値や体液量を一定に維持している。飢餓を乗り越えるために進化の過程で人間が獲得した大切な生理機能である。
SGLT2の働きを阻害すると、糖やナトリウムの再吸収が抑えられ、血糖値が低下し体液量が減って脱水症になる。糖尿病患者の血糖を低下させるために、従来の持っている作用機序とは全く異なる薬としてSGLT2阻害薬が開発された。わが国でも本年4月に糖尿病治療薬としてSGLT2阻害薬が保険診療として使用できるようになった。治験で糖尿病患者の血糖コントロールに有効であったとの成績が得られたのであろう。SGLT2阻害薬の有用性にお国がお墨付きを与えた。
発売して間のない薬であり、糖尿病専門医が臨床で使い始めたのであろう。素人の私は作用機序がユニークであり、糖尿病という厄介な病気で苦しんで人たちの福音になればと期待していた。まだ使ったことはない。なぜ現時点で処方経験がないのかについておいおい述べる。
しかし糖尿病学会は発売一か月後、そして8月29日の2回にわたり適正使用についての注意喚起を行った。ちょうどインクレチン関連薬(インスリンを出す生理的なホルモン)という新薬が3,4年前に発売され、低血糖発作患者が多発して、糖尿病学会が適正使用について繰り返し注意喚起を行ったと同じ事態が繰り返されている。インクレチン関連薬で学んだ教訓が全く生かされていない。
8月30日付けの読売新聞に「糖尿病新薬で脳梗塞12例、使用注意呼びかけ」の見出しで
「今年4月以降に相次いで発売された糖尿病治療薬『SGLT2阻害薬』で様々な副作用が報告されている問題で、日本糖尿病学会は29日、報告された副作用件数は、今月17日までに脳梗塞例12例、低血糖114例、皮膚症状が500例以上に達したと発表した」。(m3.comから孫引用)。投与された患者数がわからないが、かなりの頻度の副作用発現である。よくなろうと服用した人が不利益を被った。わたしが読んでいる医療関係の話題に熱心な朝日新聞にはこの副作用についての記事はなかったと思う。読み落としたのかもしれない。

by rr4546 | 2014-09-11 17:13 | 医療関係 | Comments(0)