医療に関する意見、日本人のあり方に関する意見


by rr4546
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Alzheimer型認知症の早期診断 No2 直観か数量化か?進行性核上性麻痺 

「医学的根拠は何か」(津田敏秀/岩波新書)に、医学的成果を科学的な根拠(数量化)に基づかないで判断すると、とんでもない過ちを犯すことがよく書いてある。
数量化を無視して、個人的な経験を重んじ(直観派)たり、生物学的研究の結果を重視(メカニズム派)したりして出す結論は信用できない。直観派やメカニズム派はわが国の医学的成果の解釈を歪めて、誤った行政施策に寄与したり、私たちの常識を誤らせたりするという。全く同感である。
大部分の医師たちは直観派であったり、メカニズム派であったりで、日本では「医学的根拠」という言葉はないに等しいというのが、津田博士の告発である。
君は自分の狭い経験(直観)で、認知症の診断・治療について語っているのではないかと怒っておられる方も多いであろう。多くの権威が議論を重ねて診断基準を作り上げ、抗認知症薬の一過性の認知障害改善効果や障害の進行抑制は多施設で確認されている。今更なにをごたごたと言っているのだと。
私の本来の専門分野である血液学領域で急性白血病(以下AML)の化学療法としてDCMPという4種類の抗がん剤の併用療法が、最も寛解率が高く生存期間が長いと考えられていた。ただ白血病治療で評価が高い病院の血液腫瘍学者であるK先生は、DCMPにビンクリスチンという抗がん剤を加えると従来の治療より一層効果があると譲らなかった。しばらくはビンクリスチンを加えるのがよいのか、ビンクリスチンなしで治療するのがよいのかは棚上げになっていた。
白血病治療に携わる腫瘍専門医たちはK先生の主張に医学的根拠があるかどうかを、多施設でしかも統計学的有意差の出せる症例数を使って、ビンクリスチンを加える群と、加えない群を無作為に割り振って比較したところ、K先生の主張とは違って、ビンクリスチンを加える群のほうが寛解率は悪かったという結論が得られた。そういう事件?を知っているので、自分の狭い経験(直観)で医学的事象について軽々に発言してはならないことは肝に銘じている。稀な例でうまくいったうまくいったと言わないよう自分を律している。
しかしアルツハイマー型認知症の早期診断や治療について、認知症の専門家や厚労省の見解について納得できないことが多すぎる。本当に彼らは認知症患者を丁寧に診ているのだろうかと。直観を磨いて患者を診療しているのだろうか。
前回取り上げた認知症の早期診断のための「自分でチェック」シートも、加齢で見られる症状と余りにかぶり過ぎている。専門医が見たら加齢現象かどうかは判定できる。本当か? もの忘れのある高齢患者は私の経験では、すべてアルツハイマーに適応がある抗認知症薬を服用している。
これだけ認知症だけにはなりたくないと多くの人が怖れているのに、さらに認知症ノイローゼを増加させるような設問を患者にばらまいて何をしようとしているのだと疑問を呈しているのである。
アルツハイマーにせよ加齢にせよ、認知障害があっても、自覚症状がないのが普通である。典型的なアルツハイマー型認知症患者にあなたは認知症ですと言えば、大変な剣幕で抗議を受ける。80歳を超えているので、ついオバーさんと呼びかけるだけで、大変ご機嫌斜めになられる。
専門医の間では認知症を告知するべきだとの意見が大勢。私の知らない治療現場では告知をしながら、より良い医療が行われているのであろう。
ここまでは認知症を早期診断のための「自分でチェック」の表に対する異議申し立てである。

ここからは果たしてアルツハイマーが本当に抗認知症薬の効果が判定できるほど、臨床現場で正しく診断されているかという疑問についてである。
アルツハイマーの診断や治療効果を統計学的に処理できるほど、アルツハイマーの疾患が正しく理解されているのか?
データ書き換えがあったJ-ADNI研究のような直観やメカニズム派を排した、認知症の早期診断の数量化による国家プロジェクトが本当に患者に福音をもたらすかの議論である。
神経変性疾患はいくら知識が豊富であっても、誤診したまま診療を続けることはよくある。高血圧や糖尿病とは違うのである。
最近進行性核上性麻痺と診断した患者がいる。長い間、パーキンソン病やアルツハイマー型認知症の診断のもとで、抗パーキンソン薬や抗認知症薬の投与を受けていた。この疾患は転びやすさ、構音障害、嚥下障害、眼球運動障害、認知症など多彩な症状があり、私もお話をする時に、認知症と鑑別するべき疾患として必ず挙げていた。
ただ今回の症例に遭遇するまで、認知症患者を診るときに頭によぎったことがなかった。ただ体の硬直が極端で、アルツハイマー型認知症に時に見られる運動障害とどこか違う印象で、しばらく可笑しいなと心に引っ掛かっていた。確定診断がつけられなくて、抗パーキンソン薬と抗認知症薬の2剤併用を続けていた。
しかしいつも下を見ようと眼球を下方に無理やり向けている。これが眼球運動障害かと思い当り、進行性核上性麻痺という疾患にたどり着いた。もう一度教科書で復習してみると、発病時期、経過そして現在の病状すべてが進行性核上性麻痺に適合するではないか。神経疾患はどの教科書より、その疾患を経験することである。症例に出会ったおかげでこれから二度と見落とすことはない。
神経変性疾患は稀なものが多く、いくら知識があっても診断できない場合が多い。直観を磨かなければならない。
アルツハイマーも神経変性疾患で、いろいろ教科書に臨床症状が書いてあるが、実際、失認とはこういうことか、失行とはこういうことかと、患者を診て実際の臨床症状に接しないと、容易に誤診する。
いや記憶障害でも、いろいろなタイプがあり、アルツハイマーの体験記憶障害がどういうものかを知らないままでアルツハイマーと診断してしまうことが日常茶飯事で起こっている。
その代表的な例がクリスティー・ボーデン著「わたしは誰になっていくの?アルツハイマー病者から見た世界」に描写されている彼女の記憶障害である。かなり以前に彼女の記憶障害は、アルツハイマーのそれと似て非なるものであると詳細に論じておいた。しかし彼女の本は医療関係者だけでなく、一般の人にも広く読まれ、アルツハイマーの人もはっきりした自己主張ができると、認知症対策のバイブルとして活用されている。
日本にも数回講演にやってきて、抗認知症薬服用で長期間病状の進行がなく、一般人と同じ生活ができるとの広告塔になっている。嗚呼!
アルツハイマー型を理解するためには、もっと誠実な経験を積み、知識を積み上げねばならない。数量化で判定できるところまで行っていないというのが、私の立場である。

by rr4546 | 2014-01-23 18:54 | 医療関係 | Comments(0)