医療に関する意見、日本人のあり方に関する意見


by rr4546
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

よき高齢者医療を目指して No22 糖尿病性認知症―低血糖

11月7日から10日にかけて、松本で開かれる認知症学会に出かける。上高地あたりまで足を延ばして、一足先に紅葉を楽しんできたい。長野で現在次男家族が生活しているので、ここ数年、信州に出かける機会が増えた。お盆以来久し振りに二人の孫娘に会うのも楽しみ。私も4人の孫を持つお爺さんになってしまった。
今まで認知症の専門家が一堂に会する認知症学会に出席したことがなかった。われながら呆れている。この機会に認知症の専門家が何を議論して、認知症患者が増える時代にどのような役割を果たそうとしているのか、じっくり聞いてきたい。感想をBlogに書くかもしれない。良い知らせが書ければいいが。
10月19日に「増加する高齢者糖尿病への対応策―新たな血糖コントロール目標値を含めてー」の講演会で面白い試みがなされたのでそれを書いておく。
講演の最後に糖尿病患者5症例が呈示されて、演者を始め現在一線で診療を行っている糖尿病専門医6人が壇上で、治療を中心に議論を行った。このような聴衆参加型の講演会は初めてである。
取り上げられた症例の中に「糖尿病にアルツハイマー型認知症の合併した症例」があった。表現を変えたり、付け加えたいことがあるが配布された資料のまま以下に示す。
症例3:72歳女性、2型糖尿病
既往歴:アルツハイマー型認知症、高血圧
合併症:単純性網膜症、早期糖尿病性腎症
現病歴:5年前にHbA1c9.0%、空腹時血糖220mg/dlで糖尿病と診断された。食事療法でHbA1c8.2%まで低下した後、血糖降下薬(グリメピリド1mg)
を開始し、HbA1c7.2%まで改善したところで、転居のため転院となった。タクシードライバーの御主人と2人暮らしで、日中は一人で過ごしている。既往症のため食事は不規則で、服薬はご主人が管理している。
直近のデータ:空腹時血糖 72mg/dl、HbA1c7.6%
現処方:ドネペジル塩酸塩(アリセプト抗認知症薬) 20mg  メマンチン塩酸塩(メマリー抗認知症薬) 10mg アジルサルタン(ARB降圧薬)20mg  シタグリプチン(インクレチン関連薬、血糖降下薬) 50mg
6人のdiscussantは、空腹時血糖は満足すべき値であるが、その割にはHbA1cが高い。食後高血糖があると考えられる。患者は72歳と若く、将来さらに心血管合併症の発症が危惧されるのでもう少し糖尿病治療を厳格に行った方がいいという結論を出した。特別講演をした権威も私からコメントすることは何もないと付け加えられた。
私は空腹時血糖が72mg/dlと低いのが気になって仕方がなかった。新しく提案された血糖コントロールの目標値はHbA1cだけが示されて、目標とする血糖値が書かれていない。しかし本年の5月まで長く使われていた現在より厳格な血糖コントロール目標には達成すべき空腹時血糖も優、良、可(不十分、不良)、不可に分けて示されている。空腹時血糖は「優」で80から110mg/dl未満、そして合併症を防ぐ治療目標値として現在推奨されているHbA1c7.0%未満は、以前も指摘したように「可」の「不十分」に大凡相当するが、その際の空腹時血糖値は130から160mg/dlとされている。
症例の空腹時血糖はその値よりはるかに低値であり、低血糖と診断するべきであろう。そういう指摘は専門医の間から全く出なかった。
専門医も糖尿病治療にはthe lower、 the worseがあるということに無頓着にthe lower、 the betterと信じて血糖を下げることだけに取り組んでいるらしい。
多くの臨床医に、血糖を下げ過ぎると患者に大変な不利益を与えることがあることを衆知させるのはどうしたらいのであろうか。嗚呼!
この患者の認知障害もアルツハイマー型と診断されているがかなり疑わしい。アルツハイマー型と診断した根拠について質問しようと準備しているうちに次の症例の議論に移ってしまった。
2剤の抗認知症薬が投与され、アリセプトが通常の5mgの4倍の20mgが投与されている治療内容から推測すると、認知障害のステージは中程度から重度と診断されていたのであろう。中程度ということは、介助なしで洋服が選べなかったり、料理もできなくなったりしている場合が多い。厄介なことに不穏や徘徊などの周辺症状も出てくる。
しかし現病歴で見る限りご主人は、患者を一人で家に置いてタクシードライバーという変則的な勤務に出ている。
アルツハイマー型はどちらかというと、元気な印象や取り繕いなどのわざとらしい症状があるのに反して、低血糖による認知障害はうつ状態で活気を失い、徐々に日常活動が障害されていく。中程度のステージでも一人で家の中で生活できるというのは、活気を失っていく低血糖による認知症と考えるのを支持しているのではないだろうか。空腹時血糖も72mg/dlと低値である!
糖尿病性認知症には低血糖から来る脳障害があるという医学常識が臨床医の間で共有されるのはいつのことだろうか。
私が可笑しいのか、権威たちが可笑しいのか。ほおっておいてよいとはとても思えない。高齢者医療はまだ道半ばであると謙虚になって、よりよい高齢者医療を作り上げるためにすべたの人が頑張らなければならない。
専門医はもっと血糖をcontrolせよという。私はむしろ今の治療でも低血糖のリスクがあるという。糖尿病治療をさらに強力にするべきか、もっと緩やかにするべきか全く異なった対応がある。こういう症例は臨床の現場でよく見かけると思う。
この症例は軽々に血糖を下げればよいということではなく、包括的高齢者機能評価を他職種で行って、もっときめ細かい治療戦略を立てなければならないであろう。そのような指摘も行われなかった。
このような状況を放置しておくと取り返しのつかないことが医療の現場で起こるであろう。起こっている!

by rr4546 | 2013-10-31 19:55 | 医療関係 | Comments(0)