医療に関する意見、日本人のあり方に関する意見


by rr4546
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よき高齢者医療を目指して No.2 老年病専門医とは? 

若い医学生や研修医の研修プログラムに、老健施設での研修を義務付けることによって、現在の高齢者医療も健全な方向に発展する可能性を述べた。いや高齢者を診療するプライマリーケア医、有り体に言えば高齢者を診る開業医も専門病院の専門医もということは、内科関連の分野を標榜するすべての医師が一度、老健施設で研修をすれば、現在の高齢者医療の問題点を身近に感じ、研修後は診療の質が必ず変わると思う。親しい同業者に「一度、老健施設を見学にくれば勉強になるよ」と誘うが、「忙しくて」と断られる。問題だらけの診療で走り回っているよりは、老健施設の体験を通して、今まで以上に手ごたえのある診療が出来るようになれば、医療関係に職を得た喜びを再確認出来るのだが。患者を見る目を深くしなければならない。
ただ老健施設というと「高い薬を出さない」、一般病院より質の悪い治療を行うところだと信じている方がほとんどである。老健施設が作られて20年が経過するのに、一向に老健施設が医療の面で信頼されない理由はどこにあるのであろうか。わたしは副作用が考えられる薬や、不要な薬を中止して、内服薬が減る理由を本人や家族に誠意を持って説明するが、本人や家族は、薬の数が減ることばかりを心配されるのには往生する。最近はわたしの行う医療は、拙著「症例から学ぶ高齢者医療の特徴とその対応」に書いてある通りですと説明するが、老健では十分治療が行われないという偏見を拭うことは至難である。実際少なからずの家族の方は、「老健に身内を預けることは、姨捨山に身内を預ける」ことだと思っておられる。「母を入れるのに勇気がいりました」よく聞く感想である。一体老健施設が作られてから20年も経つというのに、老健施設に対する一般の方の心を痛めさせる思いを、今でも残している原因はどこにあるのであろうか。
本題に入らなければならない。これだけ高齢者が医療機関を訪れ、専門学会が認定した老年病専門医がいるのに、なぜ臨床医が「老年病専門医」を標榜しないのかを考えなければならない。確かに糖尿病や高血圧の患者が、高齢になったからといって、老年学を専門とする医師にかかるということはない。ただ高齢者医療の質を維持するために、高齢患者の特徴を熟知した専門医は今後益々求められるはずである。
念のために下記に老年病専門医の資格修得のためのカリキュラムを載せておく。

日本老年医学会認定老年病専門医制度研修カリキュラム
2010年6月24日改訂
基本コンセプトカリキュラムは,老年病専門医が備えるべき以下のような資質を涵養するために必要な知識や経験をリストアップしたものである.
1.老年者に多くみられる病態,とくに老年症候群の主要な症状(誤嚥,転倒,せん妄,認知症,排尿障害,寝たきり,褥瘡など)に適切に対応し,生活の質(Quality of Life)の改善に努めることができる.
2.多くの疾患を抱える老年者に対して包括的な治療ができる.
3.老年者の終末期医療をおこなうことができる.
4.老年者施設や在宅の環境整備,チーム医療などが適切に行なえる.
5.老年者に関する基礎研究,臨床研究を理解して,Evidence -based Medicineの遂行することができる.
研修レベルのランク
知識:
 A:よく理解している.
 B:概略を理解している.
診察,検査手技,治療(原則として65歳以上の症例)
 a:原則として経験すること(担当医として受け持つ)
 b:指導医のもとに経験する(共同でもよいから受け持つ)
 c:概略の知識を有すること(見学することが望ましい)
項目
I 老年医学総論
1.老年学と老年医学
(1)老年学と老年医学の概念 A
(2)疫学A
(3)老年医学の意義及び専門医の役割 A
2.老化の機序
(1)老化の定義及び老化学説 A
(2)生理的老化と病的老化 A
(3)老化の生物学 A
(4)老化度の判定 B
(5)遺伝性早老症 B
3.老年病の臨床
(1)老年者の主要な疾患 A
(2)老年者の病態と疾患の一般的特徴 A
(3)要介護に至る疾患 A
(4)老年者の悪性腫瘍 A
(5)老年病の臓器相関(複合性疾患) A
(6)多臓器不全 A
(7)老年者との面談 A a
(8)老年者の生活指導 A a
(9)チーム医療の進め方 A a
(10)老年者の看護 A
(11)老年者の介護 A
(12)退院計画 A a
(13)医原性疾患 A a
4.老年者に特有な症候
(1)老年症候群 A a
(2)意識障害 A a
(3)失神 A a
(4)認知症 A a
(5)せん妄 A a
(6)抑うつ A a
(7)頭痛 A a
(8)不眠 A a
(9)めまい A a
(10)手足のしびれ A a
(11)言語障害 A a
(12)腰痛 A a
(13)歩行障害 A a
(14)転倒・骨折 A a
(15)尿失禁 A a
(16)便秘 A a
(17)寝たきり A a
(18)廃用症候群 A a
(19)褥瘡 A a
(20)脱水 A a
(21)浮腫 A a
(22)嚥下障害・誤嚥 A a
(23)吐血・下血 A a
5.老年者の救急疾患と対策
(1)心血管系疾患 A a
(2)脳血管障害 A a
(3)呼吸器疾患 A a
(4)消化器疾患 A a
6.老年者の検査値の変化と意義
(1)老年者の基準値 A
(2)異常値の評価 A
7.老年者の栄養
(1)老年者の栄養状態の特徴 A
(2)老年者の栄養状態の評価 A a
(3)健康維持のための栄養 A
(4)老年者の栄養療法 A a
(5)老年者の過栄養にたいする栄養療法 A a
(6)老年者の低栄養 A a
8.老年者薬物療法
(1)老年者の薬物動態と薬物力学 A
(2)老年者の薬物処方上の留意点 A
(3)老年者の薬効評価 A
(4)老年者と漢方 B
(5)服薬指導 A a
9.予防医学
(1)老化・老年病の危険因子と予防 A
(2)ライフスタイルの改善 A
(3)生活習慣病と老年病 A
10.老年者の生活機能障害の評価
(1)老年医学的総合機能評価(CGA) A a
(2)身体的機能評価 A a
(3)精神心理機能評価 A a
(4)介護者,サービス利用,社会環境に対する総合評価 A
(5)老年者のQOL A
11.老年者介護と医療
(1)医療サービスと福祉サービス A
(2)施設介護と在宅介護 A b
(3)訪問診療(在宅診療)A b
(4)介護保険制度 A a
(5)高齢社会を支える医療保険制度 A
12.老年者介護とリハビリテーション
(1)老年者介護の特徴と実際 A a
(2)運動療法 A b
(3)作業療法 A b
(4)言語療法 A b
(5)嚥下障害の介護とリハビリテーション A b
(6)脳血管障害後遺症の介護とリハビリテーション A b
(7)骨折後の介護とリハビリテーション A c
(8)認知症を有する老年者の介護とリハビリテーション A b
(9)廃用性症候群の予防 A b
(10)介護保険による在宅介護とリハビリテーション A c
(11)介護予防とリハビリテーション A c
(12)支援福祉機器 B
13.老年者の終末期医療と医療倫理
(1)終末期医療 A a
(2)安楽死と尊厳死 A
(3)事前指定書(advance directive) A
(4)成年後見制度 A
(5)ホスピス 緩和ケア A b
14.老年者と精神医療 
(1)行動・心理症状(徘徊,妄想,暴言,暴行他) A a
(2)身体抑制,薬物による鎮静 A
(3)虐待 A
(4)概日リズム障害 B b
(5)コミュニケーション障害 A a
(6)向精神薬の使用 A a
15.その他 
(1)医療経済 A
(2)EBM(evidence based medicine) B
(3)鍼灸治療と補間代替医療 B
(4)高齢者医療に関する法律 A
(5)医療安全・医療事故対策 A a
II 老年病各論
1.精神疾患
(1)加齢変化と精神疾患 A
(2)老年期うつ病 A a
2.神経疾患
(1)加齢変化と神経疾患 A
(2)脳血管障害 A a
(3)認知症の診断 A a
(4)アルツハイマー病 A a
(5)脳血管性認知症 A a
(6)レビー小体病 A a
(7)その他の認知症 A b
(4)パーキンソン病 A a
3.呼吸器疾患
(1)加齢変化と呼吸器疾患 A
(2)肺炎 A a
(3)肺がん A b
(4)慢性閉塞性肺疾患 A b
(5))肺結核 A b
(6)インフルエンザ・感冒 A a
(7)呼吸不全 A b
4.心臓疾患
(1)加齢変化と心臓疾患 A
(2)虚血性心疾患 A a
(3)うっ血性心不全 A a
(4)不整脈 A b
(5)弁膜症 A b
5.血圧異常と血管系疾患
(1)加齢変化と高血圧,動脈硬化 A
(2)高血圧 A a
(3)低血圧 A a
(4)末梢動脈疾患 A b
6.消化器疾患
(1)加齢変化と消化器疾患 A
(2)胃腫瘍 A a
(3)大腸腫瘍 A a
(4)肝硬変 A a
7.腎・泌尿器疾患
(1)加齢変化と腎・泌尿器疾患 A
(2)排尿障害 A a
(3)前立腺疾患 A a
(4)腎不全 A a
(5)加齢男性・性腺機能低下症 A c
8.内分泌・代謝疾患
(1)加齢変化と内分泌・代謝疾患 A 
(2)糖尿病 A a
(3)甲状腺疾患 A a
(4)脂質代謝異常 A a
9.骨・運動器疾患
(1)加齢変化と骨・運動器疾患 A
(2)骨粗鬆症 A a
(3)変形性骨関節疾患 A a
10.血液疾患
(1)加齢変化と血液疾患 A 
(2)貧血 A a
(3)悪性リンパ腫 A c
(4)骨髄異形成症候群 A c
(5)多発性骨髄腫 A c
(6)白血病 A c
11.感染症・免疫・膠原病
(1)老年者の感染防御と感染症 A
(2)老年者に多い感染症とその病原体 A a 
(3)関節リウマチ A a
(4)その他の膠原病 A b
12.感覚器障害
(1)加齢と感覚器の変化 A
(2)老人性白内障 A c
(3)その他の視覚障害 A c
(4)聴力障害 A c
(5)味覚障害 A c
13.皮膚・口腔疾患
(1)加齢と皮膚の変化 A 
(2)掻痒症 A b
(3)帯状疱疹 A b
(4)薬疹 A b
(5)口腔ケアと歯周病 A c
14.外科疾患
(1)老年者外科疾患の特徴 A
(2)術前評価 A b
(3)術後管理 B c
(4)救急手術の適応と予後 B b
(5)脳,神経疾患の手術適応 B c
(6)循環器疾患の手術適応 B c
(7)消化器疾患の手術適応 B c
(8)呼吸器疾患の手術適応 B c
(9)内視鏡的手術の適応 B c
(10)麻酔と覚醒 B c
わたしも初めてこのカリキュラムを丁寧に見たが、現在考えられる老年病学に関するすべてが詳細に網羅されているのに感心した。これを習得した医師が臨床の一線で活躍していれば、わたしが今感じているフラストレイションはたちどころに解決されるであろう。不思議なことにこれだけの知識をマスターしているのに、老年病専門医はなぜか自分の専門性を標榜しない。老年学と書くと、患者が敬遠するのであろうか。はたまた、カバーするレパトリーが広すぎて、老年病専門医自身が過大な期待をかけ過ぎられて大変だと感じているのであろうか。いや臓器別の専門医がいるのに、その専門性まで侵害して、患者に異なった情報を提供することを躊躇しているのであろうか。いずれにせよ専門学会が専門医制度まで定めて老年病学の診療内容の向上を図っているのに、わたしには彼らが十分活躍してわが国の高齢者医療に貢献をしているように見えない。嫌味な言い方をすれば、専門性のはっきりしない老年学を専門学会が厚化粧を施して、老年病専門医の権威付けに走り過ぎたような気がしないでもない。ともかくこなす領域が広すぎる。そこで一般の高齢者は、どの先生が高齢者の特徴を知った上で、治療してくれるのか全く知らないまま受診することになる。お陰でわたしの身の回りで見かけるのは、荒廃した医療現場である。         
わたしの実感では、学会の定める知識の豊富な立派すぎる専門医を活用して、高齢者医療を充実させるより、もっと実践に強い臨床医を育てて、医療機関に溢れている高齢者を適切に診療することを充実させる方が、超高齢社会を迎えるわたしたちの正しい選択のような気がする。
そのためには老人を一人でも多く診療する経験を積まねばならない。また高齢者には、医療だけではなく介護という対応が求められる。医療は医師が、そして介護は介護士が担うので、介護と医療はともすると別々の分野と思われがちである。しかし、壮年期を診療する場合は、介護という観点は全く必要ないが、高齢者を診る場合は、医療・介護そしてリハビリテイションの観点からの診療が求められる。次に医療・介護・リハビリテイションを融合した観点を持つ医師をどこで育てるべきかについて考えてみたい。

Commented at 2012-02-16 20:15 x
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by rr4546 | 2012-02-14 15:42 | 医療関係 | Comments(1)