医療に関する意見、日本人のあり方に関する意見


by rr4546
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よき高齢社会のために  No.7  アリセプト薬害  No.4

「アリセプト5mg問題」続き
 
 85歳、女性のK.U氏の情報提供書の一部である。アルツハイマー型認知症と診断した根拠の説明に続いて、
「・・・・・・・・・・・・・・・現時点ではアルツハイマー型である可能性の方が高いと考えています。薬物療法からは海馬の萎縮が中程度以上のため効果が乏しい可能性もありますが平成20年1月からアリセプトを3mgから開始し、その後5mgへ増量しましたが、行動が活発になり一人で出歩くようになって迷うことが増えたなど陽性症状が目立つようになったため3mgへ減量しています。その後、環境の変化や夫の他界などの影響もあると思いますが、感情の変化がおおきくなったためにアリセプトは3mg隔日でさらに減量しました。・・・」。
 アリセプトを3mg隔日で投与しているとの連絡である。保険診療上はアリセプト5,10mgの連日投与が認められているだけである。3mg隔日投与の匙加減は減量してよいとの裁量の幅を大きく逸脱している。効果が認められないとされる量よりさらに少量である。しかも製薬会社がほとんど情報提供をしないアリセプトによる陽性症状の顕在化による減量だとの解説である。神経内科医もアリセプトの副作用を知っていた。
 この医療情報に対して小生が問い合わせした手紙の一部を紹介する。
 「・・・・・・・・・小生の理解ではアリセプト3mgはアリセプトによる消化器症状の副作用の発現があるかどうかを見る錠剤で、認知症の進展を止めるためには5mgあるいは10mgを使うのが原則。アリセプト3mg隔日投与でも認知症の進展を遅らせる効果があるというevidenceを示す文献があればお教え下さい。小生の施設はコストを考えて必要な治療をやらないと言う方針を採っていませんが、研究施設ではありませんのでEBMに基づく治療を行うことを原則にしています。記憶を司る海馬の萎縮がさほどではなくアリセプトの効果が期待できないかもしれない由。何を目安にアリセプトの効果をfollowするべきかもご教示頂ければ幸甚に存じます。・・・・・・・・・・」。
 礼を失した問い合わせとは思わないが、神経内科医からの返事はない。専門医からの指示であり、仕方なくアリセプト3mgを隔日投与した。ただ患者は右手親指が震える、下腹部が張って困るなどの愁訴で不穏が続く。アリセプトの副作用を疑いアリセプトを中断したところ85歳の高齢の女性としては平均以上にお元気になられ、入所者の介助まで手伝われるようになった。
 横道にそれるが、どうしてもっと医療機関は患者の情報を共有して、患者の治療をよりよいものにしようとの努力を払わないのだろうか。専門医も実際に患者を身近に見る医師の情報を活用すれば、自分の腕が上がるばかりであろう。つまらぬ質問には時間を割く必要がないと思っておられるのであろう。
 結局は自分の首を絞める対応はアリセプトを販売する製薬会社にも見られる。唯一の認知症治療薬であるとの懇話会での紹介を小生が聞き間違いをしてはと思い、講演内容のスライド原稿の提供を依頼した。本社に問い合わせて返事をするとのことであったが、その後何の音沙汰もない。どんどん持ち合わせのデータを提供して、現場からの意見を参考にして自分たちの薬をより安全にそしてより有効に使ってもらいたいとの発想は全くない。
 聴衆を広く集めて行った自社の薬の資料は、リクエストがあればどんどん提供するのが筋であろう。都合が悪そうなことには蓋をしておくという感じである。そのような視野の狭い方向で仕事を進めると結局自分達を追い詰めるであろう。薬害だ薬害だと製薬会社の幹部が土下座させられる時代に、こんな不誠実な製薬会社がまだあるとは。
 大層横道に逸れたが本題に戻ろう。私の経験が稀でないことを河野和彦先生は京都医師会主催の学術講演会「認知症診療の鉄則と禁忌」で指摘された。
 「アリセプト5mgが投与され、攻撃性、易怒性、介護拒否などの興奮症状を招来して、認知症患者を苦しめるだけではなく、介護を一層困難にしている」。このことを「先生、アリセプトをやめたら介護が楽になりました」というスライドで説明された。彼はこれを「アリセプト5mg問題」と呼んでいた。
 さらに700例の自験例での検討と専門医同士の雑談でアリセプトの有効量は平均すると3mgではないかと解説された。先生は講演に使われたスライドを聴衆に手渡されておられた。そのスライド原稿を下に書いているのでこの件に関して小生の誤解はない。スライドの提供を渋るのとは極めて対照的な態度である。
 権威ある専門家の出した治験データに基づいて決められた投与法方法が現場では採用されていないことが多い。治験を出した専門家達はこのような事態に対して何らかの発言をする義務があるであろう。製薬会社もその辺りの情報収集に力を入れるべきであろう。
 心ある医師は保険適用外の使用をしたとの意見を添えて、減額して診療報酬を請求しているであろう。ただ面倒だから3mg隔日投与しているが5mg連日投与したとの偽装まがいの請求をする医療機関がないとは言えないであろう。
 保険請求に偽装まがいのことをさせる可能性のある薬である。請求は保険基金から確実に払われる。国民に損害を与えるのでアリセプト薬害と呼ぶ所以である。
 アリセプトはアルツハイマー型認知症の根治治療薬ではない。ただ機能が落ちた脳にアセチルコリンをより多く供給して、見掛け上脳の機能を維持しようとする典型的な対症療法の薬である。門外漢の人には判りにくいのでもう少しこの点について説明をしておこう。
 がんの患者に抗がん薬を投与する。抗がん薬はガンを縮小させる働きがあるので根治を狙った薬である。そしてガンによる痛みが出た場合に使う鎮痛薬はガンを縮小させる働きはないが、痛みという苦痛を取るので対症療法の薬と呼ぶ。
 アリセプトは認知症を治す薬でない。認知障碍の進行を遅らせることを期待して処方される薬である。ガンの患者の痛みなどの不快な随伴症状を取る薬と同じと考えていい。
 認知症患者で困るのはボケといわれる症状よりボケに伴って出現してくる攻撃性、妄想、昼夜逆転、徘徊、不潔行為などの周辺症状と呼ばれる症状である。対症療法薬のアリセプトが周辺症状を増悪させることがある。これは看過できない副作用である。抗がん薬を造血器障害、脱毛、嘔吐などの消化器症状がでても使うのと事情が違う。対症療法薬に副作用があれば目的に反するので決して使用されることはない。しかしアリセプトは使われている。神経専門医と製薬会社の怠慢が深く影響している。
 神経内科医がアリセプトが周辺症状を増悪させることを知りながら、使い続けようとする意図は何であろうか。そしてアリセプトが周辺症状に対して悪影響があることについて情報を集めようとしないで、アリセプトを売り続けようとする製薬会社の意図はどこにあるのであろうか。何か認知症の治療について神経内科医も製薬会社も充分理解していないように思う。
続く
 アリセプトの有効性を認知機能で見ることができるか?

Commented by 銀河旋風児 at 2009-03-02 09:49 x
リウマチやパーキンソン症候群と診断され新規に入ってくる利用者についてもそうですが、なぜそのような処方がなされているのか、継続的な治療が必要なのか評価がなされないで、入所をしてもらうことがあります。
主治医の情報提供書が投げやりで、8年前から同じ薬が使われ…おそらくその間にはADLの低下や病状の変化があったと思われるのですが、現在の大量の薬を老健施設でも継続せよ…ということなのかと疑問を持つことがあります。
Commented by 銀河旋風児 at 2009-03-02 09:55 x
アリセプトの件でも、入所前、デイケア利用・ショート利用の段階で、3~4年は継続してアリセプトを投与され、夜間の不穏があるということで多量の睡眠導入剤が投与されていた方がおられました。
2年ほど前に入所となった方ですが、その時点ではアリセプトは中止され、ADLが落ちたのか、それとも陽性症状がなくなったのかは判断できませんが(おそらく後者)現在はハロペリドール(0.75㎎)0.5Tの投与で夜間の良眠が保たれています。
Commented by 銀河旋風児 at 2009-03-02 10:03 x
私たち看護師も、高価な薬が有効に使われるために、臨床で評価してちゃんと報告しなければならないと感じるようになりました。
対症療法でその人の見かけの知能スケールが上昇すればよいのか、それとも生活全般がすごしやすくできるようにするため、対症療法をやめて(アリセプトの投与を中止すること)陽性症状をなくし、介護をしやすくするのか…そういった選択肢を臨床家は介護者に選んでもらえるような説明が求めらると感じました。
Commented by rr4546 at 2009-03-03 07:51
認知症を短時間の外来で診察できる。そして家族も専門医の治療は最善だと信じ込む発想を変えなければ、延々と認知症患者は薬つけで苦しまれるでしょう。24時間しかも数カ月観察できる老健施設の医療関係者がもっと発言するべきです。どちらも怠けているか患者に対する愛情が乏しいとと思います。
by rr4546 | 2009-02-27 18:01 | 医療関係 | Comments(4)