No1
今、評判の「百花」を見に行ってきた。観客はほとんど入っていなかった、認知症を患うかもしれない高齢者は時間を使っても見に行くべきである。
Alzheimer型認知症の診断や、Alzheimer患者のために、われわれはなにをすべきか非常に示唆に富む優れた作品である。医療関係者だけでなく、若年性認知症患者もみるべきである。川村元気の原作もかれ自身による脚本もとても優れており、物語が面白いだけでなく、医学的考証も、ほぼ完璧である。経験の少ない認知症専門医や、社会との関係や社会からの理解を模索している患者も、自分達の目指している方向や、自分達の立つ位置を理解するための最高の教材である。色々な感想が寄せられた後に、この映画から、何を学ぶべきか、私の感想をかく。
今国を挙げて取り組んでいる方向の評価も、客観的にするべきであろう。若い芸術家に軽蔑されないためにも。
No2
若年性認知症(高齢者と違った認知症と思っていたが、統計によるとAlzheimer型が7割と高齢者と同じ割合らしい。本当?)や定型的認知症の7割が、Alzheimer型認知症だと考えられている。必ず進行していく認知症と正しく付き合うために、Alzheimer型認知症を、正確に理解することが必須である。根拠のない楽観的な予後の説明は、患者の生活設計を狂わせる。真面目に取り組もう。
ここに紹介した、「百花」が我が国では、ほとんど話題にならないが、国際的な映画祭で評価されたとの記事が、9月26日の朝日新聞に載っていた。家族が深刻になることは、オーバー気味に描かれているが、患者自身の病状・進行は実に正確に描かれている。医事監修は一般病院の心療内科医だったと思う。
若い芸術家が描いたrealなAlzの日常から目を逸らしていては、すべてが空虚になると思う。ガン患者に正しい病名を告げなかったり、楽観的に予後を語ることは、患者を無駄な歩みに導くとして、やらなくなった。やってはならい。
Alzも同じであろう。
私の経験では、Alzheimerの診断は、帰る道を間違えた、仕事の段取りをドジった、買い物、食事の準備に手違いがでるようになったなどの日常生活に不都合が起こったと、家人や職場の同僚の申告による診断が大分部である。物忘れが激しい、人並みのことができないなどの自己申告は、大分部は、Alzではなく、ほぼ全例、軽い鬱状態であった。いずれこのような患者は症状が軽快していくが、中には患者の権利擁護のためにと、自分の負債返済を後回しにして、社会活動に身を投じ、仲間内で盛り上がっていられる。良いこととエールを送る気にはなれないが。
我々医療従事者に求められているのは、根拠のない励ましではなく、正しい診断を下し、どのような経過を取っていくかの誠実な説明である。絶対に患者と家族同伴で。
働くだけが人間ではない。友人と山登りや、居酒屋で友と酒を酌み交わすだけが、喜びではないことを伝えることが大切である。認知症専門医は全人的働きが求められていると思う。