抗認知症薬(ドネペジルなど)は、Alzheimer患者の症状の進行を抑制するとして、国民皆保険という世界に誇っていいわが国の医療保険制度のもとで投与が認められている。
不思議なことに、二つの異なった量のドネペジルが認知症治療薬として投与が許されている。なぜこのような異常な事態が起こっているのであろうか。
二派を便宜上full dosis派と少量療法派と呼ぶことにする。
Full dosisの用量は、15年以上前に抗認知症薬が医薬品として認可されるために提出された治験データに基づいて定められた。
「通常、成人にはドネペジル塩酸塩として1日1回3mgから 開始し、1~2週間後に5mgに増量し、経口投与する。高 度のアルツハイマー型認知症患者には、5mgで4週間以上 経過後、10mgに増量する。」と薬の添付書に記載してある。効能は認知症症状の進行抑制。
根治薬の可能性があるとマスコミを賑わせている、amyloid β抗体(レカネマブ)の効能も病状を止めるのではなく、進行抑制。ドネペジルとレカネマブを同時に投与すれば、認知症の発症!が抑えられる? 発症を止める薬が、今求められている!
一方、少量派の旗手、河野和彦博士は、認知症診療で家族、患者そして医療者を苦しめるBPSDとして一般医家の間で知られている「介護拒否、不穏、暴力、歩行障害などの症状」は、full dosisの用量の抗認知症薬による副作用で、抗認知症薬を減量すればこれらの症状はすべて消失するとして、抗認知症薬を減量する認知症治療を提案した。現在コウノメソドと呼ばれている少量投与を中心とした認知症治療である。
当初河野和彦博士は、変わり者扱いをされていたが、少量療法は認知症患者を穏やかにして、安定した生活を長く確保できる治療法として、今は広く受け入れられている。抗認知症薬少量派は、コウノメソッド実践医と呼ばれ、Alzheimer患者の治療に当たっている。
コウノメソッドで検索されれば、少量投与を行うコウノメソッド実践医は、日本中で活躍されていて、患者の家族から多くの信頼を集めていることがよく分かる。
河野博士は、さらに保険請求で審査の通らない自分の提案した少量療法を、保険診療で認めさせるために、山東昭子元参議院議長などを使って、少量の抗認知症薬でも保険診療がおこなえるように(このあたりの裏話は事実確認が取れていない。真実かどうかの保証はない)政治圧力で勝ち取った。ただ、この治療法は、医療関係者のお墨付きをもらっているはずである。医療関係者の関わりなしで一つの医療行為が保険収載されることはない。
この保険収載を契機として、少量で治療することによって医業停止を受ける危惧は、一掃された。実地医家は保険医の資格を失えば、路頭に迷う。
常用量を使って副作用があったとのコメントを診療保険請求書に記載すれば、少量療法でも保険診療上、医療費が請求できるようになり、現在に至っている。抗認知症薬の少量療法が国からの認知を得た。
河野博士の少量療法から何を学ぶことができるであろうか。
方程式解1
「治験のあるデータで示された常用量は、認知症のBPSDと診断されている「介護拒否、不穏、暴力」などの精神症状を惹き起こす。抗認知症薬を少量にすることによってこれらの患者に不都合な症状をすべて軽快させられる。少量を維持すれば、不都合な症状はぶり返すことなく、穏やかな生活が確保できてAlzheimer患者の長期の安定した生活が保証できる。」
Full dosis投与による、BPSDまがいの副作用は、コウノメソッド実践医が抗認知症薬を減量するとによって消失することから、薬害であることは明らかである。認知症治療に携わる実地医家にアンケート調査をすればすぐ結論が出る。
むしろ多くの症例で認められる副作用がなぜ治験の段階で指摘されなかったのであろうか。治験に携わった高名な医師たちに、その理由を尋ねるしかない。
ここで話が終わりではない。
方程式解2
「今日の医療指針20・・・年」は毎年更新され、ほぼ実地医家全員が新版を手元に置いて、診療している。
「Alzheimer型認知症の治療の項」はドネペジルの投与方法について、コウノメソッドについて全く触れないで、「投与開始時3mg1日1回3mgから 開始し、1~2週間後に5mgに増量し、経口投与する。高 度のアルツハイマー型認知症患者には、5mgで4週間以上 経過後、10mgに増量する」と、ドネペジルの添付書と同じ文言が権威たちの実名入りで、Alzheimer型認知症の治療指針として書かれている。
実地医家全員がこの指針を信頼して、full dosisの抗認知症薬を患者に投与している。
何故副作用に触れないで、権威たちはfull dosisを指針の中で、強調するのであろうか。
コウノメソッドで「少量のドネペジル投与で、認知症の症状の進行を抑制する」との有効性を確認するためのdouble blind test(二重盲検法)が行われていないことを権威たちは知っているのであろう。医学的根拠のない少量療法を指針の中で書くわけにいかない。学者としての矜持であろう。
ただ権威たちは、full dosisを投与して、不必要に増加させられたacetylcholineによって招来される副交感神経興奮による精神的不穏、頻尿、徐脈などのBPSDまがいの症状の対応について指針の中でほとんど触れない。
少量投与によってそれらの症状が軽減できることを本当に知らないのであろうか?full dosisの抗認知症薬の薬害も自覚していないのだろうか?
多分少量療法の認知症の進行抑制の二重盲検法によるevidenceがないことばかりが気になっているのであろう。
患者の苦しみより、データを優先。サジ加減をすることが臨床医の腕の見せ所なのに。すべての実地医家が拠り所にしている治療指針に、full dosisの有効性だけを書き続け、抗認知症薬の副作用に無関心。彼らは患者を真面目に診察していない。
保険診療で認められている!少量療法によりBPSDまがいの症状が軽減することに少し触れるだけで、現在のような荒廃した認知症医療現場は出現しなかった。
Full dosis投与によって招来されるBPSDまがいの症状によって、家族などの介護者を苦しめ、患者を精神病院に保護入院させたり、大量の向精神薬の投与を必要としたりという、認知症患者を厄介者にするような、現在のような医療現場は出現しなかった。指針を書く認知症権威の責任は重い。
少量療法では認知症の症状の進行の抑制のevidenceがない。
一方full dosisのドネペジルが認知症症状の進行を抑制するというevidenceはどのようにして得られたのであろうか?
Alzheimer型認知症は侵される脳の機能に従って、短期記憶障害、時間と場所の見当識障害、判断力の低下などの中核症状が現れ、日常生活が障害されて認知症と診断される。Full dosisの臨床効果は、認知症で犯されるこれらの機能に対する進行抑制をきめ細かく検討したのではなく、認知機能を70項目―具体的にどの検査項目がどの認知機能をさしているか指摘するのは難しいーに細分化して、その細分化された認知機能を調べるADASと呼ばれるtestで、認知機能の変化で臨床効果が調べられた。
一般医家だけではなく専門医も70項目の認知機能の詳細は知らない。実際臨床の現場で、認知症患者の認知機能を70項目のADAS scoreで評価していない。そんなことをする時間がない。行っても患者に有用な情報が得られない。検査のための検査である。
大抵は8項目の質問をするHDS-R(改訂式長谷川式認知テスト)か、記憶力を評価するほうにすこし力点を置いているMMSEの30点で、認知症機能の程度を評価している。
不思議なことに、full dosisの薬効は実地医家がやっていない、臨床的に意味があるとも思われないADASという面倒な検査で評価された。
服用群では偽薬群に比較してADAS scoreの低下が緩徐である―偽薬群に比較して明らかに差異があるのではなく、有意差検定でやっとこさっとこ偽薬群よりscoreの低下が緩徐であるとの根拠―とのevidenceで、ドネペジルがAlzheimer型認知症の進行を緩徐にさせるとして、Alzheimer型認知症の治療薬としてわが国で広く使われるようになった。
フランスではこの差は有意と認められないとして、ドネペジルは認知症治療薬として取り消された。ADASはその程度の信頼度である。
ドネペジルが、記憶障害、見当識障害、判断力の低下にどのような効果を発揮しているかについて正確に観察されていない。
注意深く患者の症状を見ていれば、full dosisのドネペジルは認知障害の進行抑制ではなく、BPSDまがいの副作用を頻発させていることだけはよくわかるはずである。治療ではなく副作用を起こしている。嗚呼!
そのような薬が、認知症の特効薬だとして10年間で一兆円以上売り上げて、特許が切れて後発品が出た後も販売活動をして、売り続けている。
このような状況の背景を知っている人は、某製薬会社の医師を手玉に取る販売戦略に驚き、患者に有益かどうかをそっちのけで、薬の処方箋を無自覚に切る医師が多いのに驚く。認知症医療の荒廃である。
製薬会社が医療界に大変な影響力を持っているのは、製薬会社の企業論理によるというより、倫理理に背くことを平気でする医師がやたらと多いことによる。命を預かる医師はどうかしている。
すました顔をして、よいしょする医師に猛省を促したい。
認知症の権威でマスコミで重宝されている権威が今でもマスコミに出て、認知症について正確な情報を提供するのではなく、自分が立ち上げた認知症のアロマ治療を宣伝しているのには驚いた。
認知症で金儲けを企んでいる御仁は医療界だけではなく、自称患者やマスコミ関係者などあらゆる分野にいる。嗚呼!
認知症患者の介護者を困らせ、精神病院に保護入院させられるBPSDまがいの症状はfull dosisのドネペジルを服用している症例だけに見られる。有効性を論ずる前にアウトである。薬が発売されて15年以上も経過するのに、このあたりのことが全く議論されない。嗚呼!
抗認知症薬が認知症症状の進行を緩徐にするとの、根拠を主治医にお尋ねになられたらいい。内実は知らないままで、ADASの成績をオオム返し繰り返するだけ。これでは患者は浮かばれない。
認知症の症状の変化の推移を正確に観察する方法が本当にあるのだろうか。
認知症というとボケて急速に人格が廃絶するように思うが、10年・15年単位で徐々に悪化していくのが、Alzheimer型認知症の特徴である。
「認知機能の症状の悪化」を論ずるほど、私たちは認知機能を客観的に評価する指標を現在も持っていない。
Professorの認知症患者の診察風景を、以前SNSで揶揄したことがある。記憶障害について本人をいくら丁寧に診察しても、どの程度の障害か分からない。認知症患者は病識に乏しく、どのような記憶障害による事件を起こしたか正しく言えない。記憶障害の程度は、本人と身近な人と一緒に診察して、初めて記憶障害の程度を把握することができる。見当識障害も同様である。本日は何年何月かをいくら丁寧に尋ねても、同じ質問をすれば患者は準備して、正確な答えをするだけである。
日常生活の障害は,本人から絶対に聞き取れない。とんまなことを自覚していれば、日常生活での不都合は起こらない。自覚なしで、同じものを買いに行くから問題なのである。身近な人が申告しなければ、日常生活のチョンボを聞き取ることはできない。認知症患者の診察の仕方もいい加減である。
薬効を見るほど、正しく認知機能を数量化できる方法は今はない。病識の乏しい認知症患者では特に。
方程式解3
Full dosisも少量療法も、認知症の症状の進行を抑制する信頼できるevidenceはない。Full dosisの薬理学的作用を考えても、acetylcholineが脳の神経細胞の働きを正常化したり、退行変性した神経細胞を再生させる働きはないというのが、現在の薬理学の結論である。
結論
Full dosisも少量のドネペジルのいずれも、認知機能の正常化に及ぼす効果はない。
ドネペジルは量の多少に関わらず、Alzheimer型認知症患者に投与しても何も効果がない。ただfull dosisは不穏、頻尿、徐脈などの副作用が出て、患者を苦しめて、精神病院に搬送されたり、向精神薬などの投与を受けてpolypharmacyでfollowを受ける場合が多いが、少量療法は患者は穏やかで、長期にわたってfollowすることができる。
ドネペジルが認知症に有効な薬だと指針に書く認知症専門医は、現在投与された薬の医療費を全部負担すべきである。
ドネペジルが抗認知症薬として有効であると治験で結論づけた、本間昭博士らは1兆円を健康保険組合に弁償すべきである。
もう一つの認知症治療薬NMDA受容体拮抗薬(メマリー)も認知機能に及ぼす働きはなく(Sibに及ぼす効果を見よ)、傾眠をもたらす副作用を認知症患者の不穏をしずめる薬として使われている。メマリーを処方する医師の医師免許ははく奪するべきである。
以上証明終わり。
このような異常の状況を放置すると、患者の数から国民病と言っていい認知症の医療が国を亡ぼす。製薬会社も、医師もそして患者の振りをしている人たちの欲にまみれた行動を許しておけば、国は亡びる。
なぜ、アセチルコリン分解酵素阻害薬(アリセプト、レミニール、リバスタッチ)やNMDA受容体阻害薬(レミニール)がAlzheimer、そして、レビー(アリセプトだけ)に認可された時、下畑研究室でのような、真面目な医学的議論がなされいれば、現在のような荒廃した認知症医療現場はできなかった。
副交感神経神経を不必要に刺激して、患者を苦しめたり、副作用を治療に使うような、現在の認知症治療の異常な状況は生まなかったであろう。これは、犯罪である。
驚いたことに、老化とホルモンの研究者で老年学のリーダーが、突然NHKで、新しい抗認知症薬の紹介に、出ていたのは、あっけにとられた。現役の認知症専門医は、認知症学は泥縄、付け焼刃で勉強して論じれるほど浅いものではないと抗議するべきである。認知症医療に関わると、なにか甘い汁がすえるのであろう。何せ高齢者の5人の一人が認知症で苦しまなければならない、患者は無尽蔵。やり甲斐はあるわな。認知症を専門とするだけで精神科医でも繁盛するはずだ。精神科医は、医学的勉強はしない人は多いが、教養の深さは、我々を遥かにしのぐ。木村敏先生しかり、中井久夫先生しかり。宮岡等先生しかり。
このままいくと、おかしいと私が感じている認知症現場は、なにも改善されないで、患者はこれからも、大変な不利益を被り続けるであろう。
元気な患者は、福祉の恩恵こそ受けているが、何が不満で、暇なことに貴重な時間を使っているのか、分からない。何を要求しているのか私に分からない。何のために、戦っているのか分からない。
認知症患者を精神病院から一日も早く開放しなければならない。嗚呼!」