認知症患者の一部は精神病院で治療を受けたり、拘束下で点滴を受けたりという、理不尽な医療処置のもとで療養生活をしている。Alzheimer患者は老衰まで在宅で看れるという内田直樹論文(内科学会雑誌111巻2377、2022の「在宅での認知症診療」)から想像できない目を背けたい認知症医療現場がある。
この内田論文に対する批判を400字以内という制限のもとで、内科学会編集部に送ったが、半年の長い間の審査の結果、私のletterは取り上げられないとの返事が来た。
我が国の内科学をリードして、患者のために頑張っておられる内科学会誌の編集部の諸先生方が(参考のために編集担当理事、編集主任、編集副主任、編集委員の方々の名前を保存。時が来たら公開する)私の指摘を闇に頬むり、認知症患者が受けている医療的な不利益を見てみぬふりをしている状況を打開するために、私は私なりに努力をしなければならない。
2025年には5人に1人、約700万人が認知症患者になると予測されている。現在の異様な状況を放置しておけば、医療に携わる一人一人にその責任が問われる時が必ず来る。
現時点で、認知症医療で、問題になっていることは、私の知る範囲では、精神病院への入院と、拘束下での点滴治療という、どう考えても認知症患者の側に立ったとは言えない、医療が幅を利かせていることである。
まず認知症患者が本当に精神病院で入院治療を受けているかということと、拘束下で点滴治療を受けている患者は認知症患者かを示すevidenceを書いておく。
「精神病院と認知症患者」という検索をかけられたらいい。認知症患者の精神科受診はどうしたらいいのか、費用はどれくらいかの素朴な質問―内田直樹博士にお尋ねになればいい、そうする必要がないとお答えになるはずである、アホらしいーとの問答集と同時に、厚生労働省がまとめた「精神病床における認知症患者に関する調査概要」というPDF fileで50枚の報告書と、前田潔神戸大学名誉教授が主導された「精神科病院に入院する認知症高齢者の実態調査―入院抑制、入院期間短縮、身体合併症医療確保のための研究」報告を見ることができる。
実際、認知症患者が精神病院で入院、治療を受けているかがこれらの報告書をみると納得できる。表1は精神病院の病棟種類別対象患者数の内訳を示している。精神疾患患者より、認知症がらみの患者が精神病院の認知症療養病棟、認知症治療病棟(この違いは私には分からない)で治療を受けている。
精神病院の経営を支えているのは認知症患者か!データを読み間違えているのかもしれない。
入院治療を受けている患者の症状を頻度別にまとめたのが表2である。医療行為への抵抗、意思疎通の困難、徘徊、被害妄想など、認知症患者によく見られるいわゆるBPSD症状で、認知症を扱いなれた介護士が対応すれば、これらの症状はほとんど、軽減ないしは消失する。改善しなければ抗認知症薬を抜薬すれば、BPSDと診断していた症状はなくなるか。なぜか抗認知症薬は止められない。嗚呼!
せん妄を来した認知症患者の対応は、馴染みのない一般医家では、難儀であるが、統計では、ほかの症状に比較すれ占める割合はわずかである。せん妄が6週間と長期にわたって続いくということはない。なぜ彼らがせん妄という診断で入院しているか分からない。
その上驚くことは、入院期間である。入院期間は60%以上が半年に及び、1年以上にわたる患者も50%に上る。
精神病院は認知症患者を入院させているが何も治療していない!ので長期入院になるのであろう。
内田直樹博士にAlzheimer患者を老衰まで診る方法を尋ねられたらいい。そのような努力もしないで、残された時間が少ない高齢者患者を精神病院に閉じ込めておくことに心が痛まい。そのこと自体異様である。
内田直樹博士は秘伝を教えないかもしれない。
代わりに私が認知症患者を精神病院に預けない方法をお教えする。服薬させている抗認知症薬を中断すれば、入院させるほどの医療行為への抵抗、意思疎通の困難、徘徊、被害妄想と認知症患者のBPSDと診断されていた症状のほとんど消失するか、軽減する。この対応しかないのに、抗認知症薬を止められない。効果も判定しないで。アホらしい。
新らしい抗認知症薬を売ろうとしている。今日そのことを担保する認知症基本法が国会で通過した。拾い読みしたが、国をあげて、新薬を認知症の特効薬にしようという法律である。誰の主導でできた法律か。国会議員をたらし込む前に、正しい新薬の本当の有効性と副作用を正しく我々に伝えるべきである。
拘束下の点滴を受けている患者が認知症がらみというのは、そのような実態調査を1998年前後にされた、がん研究センターのA.O.先生とのやり取りを紹介して、明らかにしたい。
当時認知症患者は、フランス発祥のユマニチュードというケア技法で、穏やかにすることができると認知症介護研究・研修東京センターN.K.先生がユマニチュードをわが国に導入された。
新しもの好きのNHKが、拘束しないで点滴をする病院と、拘束下で点滴を行う病院のstaffを集めて、あたかもユマニチュードのケア技法を導入することによって、患者を拘束しないで点滴できるようになるとの作り話仕立ての番組を放映した。
その番組にコメンテーターとして出演され、拘束下での点滴を実施している全国調査をされておられた国立がんセンターのA.O.先生とやり取りした手紙で、拘束を受けて点滴を受ける患者は、認知症がらみであることを明らかにする。80歳以上の高齢で医療上必要であることを説明したうえでの点滴を拒否するアホはどこにもいない。認知症患者でも事情は同じである。そのアバウトなやり取りの紹介から、認知症患者の一部が拘束を受けて点滴治療を受けていることが分かって頂けると思う。
続く
を丁寧にご審査いただきありがとうございました。
不採用でしたが、内田博士のお返事をお教えいただき有難うございました。
ただ内田博士のお答えには、根本的な間違いがありその点だけはご指摘させていただきたい。
何せ多くの内科学会の会員が、Alzheimer型認知症患者を内田博士のように老衰まで―本論文にそうしていると述べていますー診たいと願っていますが、内田論文にはそれが書いていないとがっかりされていますから。
内田博士の小生のletterに対するご返事の中で根本的な間違いがあります。
1 抗認知症薬の効果は「認知機能障害の改善」と述べておられます。効果は認知機能の改善ではなく、進行を抑制するということで保険診療が許されているだけです。内田博士は色々なところで認知症に関するご講演をされていますが、抗認知症薬の効果を、認知機能の改善と講演されれば、抗認知症薬が間違った目的で使われる可能性があります。
2 抗認知症薬に常用量と少量と異なった量での認知症治療が許されているのは、常用量では患者の精神的不穏をたびたび招き、患者の介護者の負担が多すぎるために、少量療法が保険で認められた。河野和彦博士の「コウノメソッド」の著作と、全国で活躍しているコウノメソッド実践医の臨床報告を参照されたい。糖尿病や高血圧の際の薬の、匙加減と根本的に違います。私は投与中副作用あれば、減量ではなくて中止です。
抗認知症薬の効果は、認知機能の障害の進行防止であり、二種類の投与量が認められているのは、常用量では患者の精神的不穏を招くので、介護者の負担を軽減するために常用量と少量の二種類の投与量が定められた。
認知症治療について、根本的誤解、無理解がある論文は著者に訂正を求めなければ、認知症治療の混乱を一層招くと思います。
一件落着にあれやこれやとクレームを付けて申し訳ありません。
内田博士の論文に対する私の異議申し立て。
時が来ればすべてのやり取りを公開。
前回の投稿と順序が逆になった。rejectされた投稿原稿(letter)とその際、内科学会雑誌編集部に添えた手紙
5月19日に日本内科学会編集部から私の1月13日に投稿したletterはrejectされたとの連絡をいただいた。
数百万人の認知症患者がいて、将来まだ患者が増加していくという大変な状況下で、拘束して点滴をしなければならないcaseがある。少なからずの認知症患者を精神科で入院治療しなければならないとの現状に、内科学会がさほど危機感を持っていない。驚くべきことである。
そのような状況を放置していくわけにはいかない。
老人には老人として果たさなければならない義務がある。今回は内田論文にまつわる私が関わった珍事について報告しておく。
Letterを内科学会雑誌に送った際、編集部に添えた文
「在宅での認知症診療」と言う限られた場での認知症診療についての論文ですが、在宅での認知症診療の特徴や、進め方について全く触れられていません。一般的な認知症診療の概論です。
概論ですので、認知症診療現場で今抱えている厄介な問題に対して、どのように対応するべきかが、書かれているかと言えば、そうでもありません。そこで、内科学会員に有益な認知症概論になるよう.同封したletter to the editorを書かせていただきました。
現在、少なからずの認知症患者が精神病院での長期の入院加療を受けています。認知症患者を精神病院で治療する状況は、異様な事態で、一日も早く改善されなければなりません。筆者は、精神科医にも拘らず、現在実地医家を悩ます精神科受診のpointを、何も書いていません。精神科受診が不要であれば、その理由を明記しなければなりません。
二つの異なった用量の抗認知症薬が保険診療で認められているという異様な状況を招いている理由も、実地医家に分かり易く説明するべきだと考えます。同じ薬で異なった二種類の投与量が保険診療で認められている。実地医家には理解困難な状況です。この件についても、記述は全くありません。
現時点の「認知症診療論文」概論は、これらの認知症医療に存在する理解できない事態がなぜ生まれたかの経緯を詳しく解説し、これらの問題を解決するために役立つ論文でなければならないと思います。
超高齢者に多い、故長谷川和夫先生が患われた嗜銀顆粒性認知症についての記述がありません。
Common diseaseとなった認知症を正しく診療するための道しるべになって、初めて内科学会員に役立つ認知症診療論文と言えると思います。評判のいい認知症専門医になるためには、副作用だらけの抗認知症薬を止めればいい、ただそれだけです。
採択のほどお願いします。
Letter本文
和田秀樹博士は治療なしで「認知症が進むとニコニコ」と表現される1.認知症医療現場ではかなりの数の認知症患者が精神病院で入院治療を受けている2.治療した群のほうが、精神病院入院など難渋する症例が多い。現時点での「認知症診療」論文は、精神病院入院治療が必要となる認知症医療の問題点についてまず解説しなければならない。精神科受診を考慮する病状として「せん妄」と「BPSD」が挙げられる。精神的不穏、暴力行為は広く使われている薬剤ではなく、acetylcholineを上昇させて、異常に副交感神経を刺激する抗認知症薬は通常量でもよく起こすので、原因薬剤として抗認知症薬を先ず挙げなければならない3.減薬を勧めているが、保険診療でも認められている抗認知症薬療法に触れ、少量療法4は中核症状への治療効果が検討されていないので、減薬ではなく、ただちに中止を勧めるべきである。在宅で老衰まで診る認知症診療を述べながら、訪問看護師、リハビリ師、薬剤師などのparamedicalとの共同作業の在り方について全く触れられていない。80歳以上でよく発症し、性格的に攻撃的な傾向があり、薬に過敏に反応する嗜銀性認知症についての記載が必要である。穏やかな在宅での診療現場をどのように作り上げたかの解説がなければ、認知症医療で難渋している実地医家に有用な論文とは言えない。
引用文献
1和田秀樹:80歳の壁 幻冬舎新書 2022
2認知症治療病棟でのBPSD対策や入退院支援の在り方などの検討 中医協総会 2017年
3寮隆吉:認知症 症例から学ぶ高齢者疾患の特徴とその対応 金芳堂 2011 p25―40
4河野和彦:コウノメソドで見る認知症診療 初版 日本医事新報社 2017
5日本神経学会:第11章 嗜銀顆粒性認知症 認知症診療ガイドライン 医学書院
2017