医療に関する意見、日本人のあり方に関する意見


by rr4546
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寄り道 一過性脳虚血、徐脈、頻尿―見落とされている可能性がある認知症薬の副作用ー失神発作?

アセチルコリンを増やす認知症薬は、副交感神経の刺激を介して、徐脈や頻尿の副作用を来すことがある。多くは見落とされているが。

最近、Alzheimer型認知症(AD)と診断されてデイケアに通ってくる患者3名が一過性脳虚血(TIAとは言えない。麻痺がない。しかし一過性に意識障害を来す)と診断するしかない、しばらくすると覚醒する意識障害を来した。

最初の81歳の男性患者は脳血管障害を疑って、医療機関を紹介した。CTMRIでさんざん詳細な検査を受けたが、意識障害を来すような病変がないとのことで、原因はわからないまま経過観察となった。

しかしたて続けに71歳女性と75歳男性のADと診断された患者が同じような意識障害を来した。

何か共通した原因があるのではと、3例のカルテを見直した。すべての患者が抗認知症薬(アリセプトあるいはレミニ―ル)を服用している。意識障害を起こした際、看護師が必ずバイタル(ECG,血圧、SpO2,血糖値、簡単な運動障害の有無など)を検査することを我々の施設では取り決めているが、3名ともECG50/分前後の徐脈が認められた。当初病的な徐脈とは考えなかった。その上、頻尿でたびたびトイレに立つ。これも高齢者特有の神経因性膀胱か前立腺肥大による症状と高をくくっていた。

3例ともベシケアという抗コリン作用を持つ頻尿治療薬が処方されている。多分自宅でも小便が近いので、頻尿治療薬が処方されたのであろう。

現在私は、これらの患者はアセチルコリン分解酵素阻害薬服用によって過剰に増加させられたアセチルコリンによって、徐脈が引き起こされて、不要な徐脈によって「脳血流低下」を来し、一過性の意識障害を招いたと診断している。妥当な見立てであろう。

アリセプトやレミニ―ルの添付文書を見ると、「失神」という副作用が挙げてある。失神を招く機序には触れられていないが、多分徐脈そして脳血流低下が招く一過性の意識障害を「失神」としているのであろう。

10年間、MCI,軽度、中程度そして重度の総計百人以上の色々なタイプの認知症患者を診てきたが、意識障害の患者を見落としていた。面目ない。

いや不必要なアセチルコリン上昇が、機序がわからないが失神を招くのかもしれない。それにしても、認知症薬の副作用の発症機序だけでなく、「認知症症状の進行遅延」の効果についても、その作用を招く機序は仮説だらけで、正しい機序はまだ不明な点が多い。恐ろしい。

考えようによっては4種類の認知症薬は米糠や赤ミミズのような摩訶不思議なサプリメントと同じ類の薬のような気がしなくもない。脳の働きはわからないことだらけである。アセチルコリンやグルタミンソーダの働きをなぶって認知症を何とかしようなどと思いあがることは厳に戒めなければならない。権威の頭の中はヘボ医者の私には想像できない。

こちらの報告で主治医が抗認知症薬投与を中止した患者はその後徐脈は改善して、意識障害の再発は認めない。

連絡を無視して認知症薬を止めてもらえない患者は、易怒性が収まらず、よちよち歩き(Parkinson症候群)でたびたびトイレに行っている。転倒して骨折でも起こしたら誰が責任を取らねばならないのだろうか。理不尽なことに介護士が訴えられる可能性がある。嗚呼!

意識障害が癲癇によって引き起こされたことは否定できないが、アセチルコリンを増やす薬が、アセチルコリンの本来の働きである副交感神経の刺激で徐脈を引き起こし、脳血流の低下している高齢者では意識障害を来すことがあることを示す症例群と考えている。

しかもその副作用は多くの医療現場、いや私のように見落としている可能性があると考え、主治医に連絡した紹介状を挙げておく。患者が特定されないように3名の患者の特徴がまぜてある。

              紹介状

75歳 男性

平成29年6月11日から当施設のデイケアを利用。糖尿病、アルツハイマー型認知症、心房細動、変形性膝関節症で貴院にて加療中。

本日AM10時ごろ、椅子で座位をとっていたところ、意識レベルが低下。

BP180/100(いわゆる脳貧血と言われる類は否定的)と上昇していました。意識レベルは仰臥位にしたところ20分間くらいで改善、その後運動障害は全く認められませんでした。

その際に取ったECG52/分と徐脈を認めましたがP波はあり、ワーファリン投与中でしたがAFは否定的でした。

徐脈の原因ですがアリセプト服用によるアセチルコリン上昇が過剰な徐脈を招いている可能性が高いと考えています。頻尿も同様にアセチルコリン上昇の一部関与が疑われます。抗コリン作用のある頻尿治療薬はアセチルコリンの効果を阻害し、認知症を招来することがあり、高齢者あるいは認知症疑いの場合は投与すべきではないとされています。

Alzheimer型認知症の診断ですが、本日当施設に来た様子を伺ったところ、・・さんと、施設の送迎バスで来たことを正確に覚えておられました。朝食も孫の・・・ちゃんと食べたとのこと、近時エピソード記憶障害はほとんどなく、遅延再生も保たれており、十分な検査ができていませんが、Alzheimer型認知症は否定的で、MCIに分類されるべきものと考えています。

アリセプトは適応がないだけではなく、徐脈や頻尿などの副作用を招来している可能性がありますので、投与についてご再考ください。

糖尿病についてですが、肥満が著明であり、インスリン抵抗性が高いことが予測されます。肥満を招来するSU剤は禁忌。

インスリン抵抗をとるビグアナイド製剤かアクトスにするべきかと愚考いたします。

小生が作った抗認知症薬の副作用と高齢者糖尿病の治療目標を参考のためにお送りします。

Rp

1 アリセプトD(5) 1

2 カデュエット配合錠 1

3 オイグルコン(2.5) 1

4 ワーファリン2錠  

5 ベジケアOD(5)  1

主治医はこちらの報告を参考にして処方を見直してくれ、患者は現在落ち着いている。


認知症薬の副作用について注意深く配慮して、3年前に発症したと思われる典型的なAD患者に認知症薬を中止して、セロクエールを中心とした向精神薬でBPSDを巧みに対応されている症例を最近経験した。近時体験記憶障害、着衣などに関する失行、買い物などが適切にできない夜間徘徊、易怒性と多彩な認知機能障害を持ちながら-家族は対応に追われて疲弊していたー、BPSDだけのcontrol3か月前まで老人センターに出掛けて、将棋やマージャンを楽しんでいたという。多分4種類ある認知症薬がかっては投与されていたであろう。後日詳細は問い合わせる予定。京都市立某病院でfollowを受けていた患者である。念のために言っておくが、3年前にADを疑わなければならない明らかな症状(家人が近時体験記憶障害に気がつき、症状が進行し、同じ本を買い込いこんだり、身の回りに無頓着になっておかしいと訴えている)があるのに、私の仕事をしているN地区の認知症基幹病院Nは、脳の形態学検査に異常がないので、心配ないと診断している。家人からの申告が診断には一番重要であるとの日頃からの私の主張は全く顧慮されていない。

3年たった今でも、取り繕いや、簡単な問診で近時体験記憶障害が明らかなのに、患者は見掛け上、知的な雰囲気を持つ上品な紳士である。基幹病院の医師は見掛けにだまされたのであろうか。実際わたしが診た時にすでに中程度の進行状態であるが、穏やかに私と会話されている。内容はAlzheimer型認知症に特有で私にはあれあれと思うことばかりであったが。念のために申し添えておくが、このような患者との面接は、患者の語ることに心を込めて耳を傾けることが、患者の信頼を得る唯一最善な方法である。家人に持ち込ませた将棋盤で将棋をしたが、小生の負け。ただN病院は薬漬けにするのを得意とする病院なので、正しく診断されて、むちゃくちゃにされなくてよかったかもしれない。アホらしい。

認知症対策に最も熱心に取り組んでいると評価されているN地区の医療機関で上記3名の患者も診断と治療を受けている。嗚呼!

認知症を発病して20年経過した今でも認知症患者のために活躍している同病の患者がいるという新聞報道にあおられて、ボケ即認知症薬、認知症薬はAlzheimer型認知症に限るという縛りがあるのを無頓着に、がばがばと効果判定も副作用も観察しないで認知症薬が使われている認知症現場に親しんでいるので、私が主張している対応を取っておられる専門医がいることに心から励まされた。

副作用に注意を払いながら、認知症薬を使うDrと、マスコミとMRの情報だけで効果も副作用も考慮しないでがばがばと認知症薬を使うDrとの違いはどこにあるのであろうか。患者に迷惑な勉強をしない職業的倫理観の欠如しているDrは一掃されなければならない。しかし一般の間では評判がいいからな。正論が通る世界でもないしな。

(なぜかフォントが一定にできない。見苦しいことご容赦を)


Commented by 小田陽彦 at 2017-06-23 08:08 x
 ドネペジル添付文書副作用の欄には頻尿も記載されていますね。
”洞不全症候群、心房内及び房室接合部伝導障害等の心疾患のある患者”は慎重投与とするよう添付文書に記載されているので、心房細動のある人に投与するときは慎重にならざるを得ません。コクランレビューによると、無作為化比較試験で失神が報告されたのは実薬群1194例中41例(3.43%)に対しプラセボ群1012例中19例(1.88%)で、オッズ比は1.90(95%信頼区間1.09-3.33, p=0.02)です。 Birks J: Cholinesterase inhibitors for Alzheimer's disease. Cochrane Database Syst Rev. CD005593. 2006 多くの無作為化比較試験で心房細動や徐脈など心血管系疾患のある人は除外されているのに失神のオッズ比が1.90だったということを考えれば、心房細動のある人にはコリン分解酵素阻害薬を怖くて出せません。こういう数字を医師と患者と介護者が理解したうえで、それでも飲むと本人がおっしゃるのであればそれも有りかと思いますが、一回でも失神が起きたのであれば即時やめさせるべきかと思います。
Commented by rr4546 at 2017-06-27 10:37
失神発作について、徐脈の関係で納得がいった症例が続き、よく理解できました。10年近く患者を診て今気がついたでは面目ないでが。エーザイも失神発作は徐脈から来る脳循環不全と理解していました。不整脈(afを含めて)や心不全がある場合は注意していたのですが・・。それにしても治験の段階で副作用として失神に気がついたDrがいた。Dementiaの症状の一つと見落としてもおかしくなかったのに。そういう先生ばかりであればもう少しましな認知症医療がとーにでき上がっていたのに。いい加減なDrが幅を効かせすぎ。残念!
by rr4546 | 2017-06-19 22:53 | 医療関係 | Comments(2)