医療に関する意見、日本人のあり方に関する意見


by rr4546
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認知症国際会議  No 8 認知症の治療目標 ADAS-JとSIB-J

根治が期待できないAlzheimer型認知症(AD)患者は何を目標として治療を受けているのであろうか。
一般医家はボケ患者のほぼ全例をADと診断して、投薬治療をしているようにわたしには見える。ADはボケの60%以上を占めるといわれているが、典型的なADの占める割合はもっと低いように感ずる。臨床症状に基づく、我流の認知症の鑑別診断についてはいずれ書く。今でも新しいことを学びながら、我流の診断学を患者に望ましいと想像していることを達成するために改定している。
ボケはどのような目標で治療を受けているのかという今回のテーマに戻る。「認知機能の改善」と「進行遅延」を期待して、権威の勧める選択アルゴリズムに従い、抗認知症薬が投与されている。治療目標は繰り返すが「認知機能の改善」と「進行遅延」である。
家族は身内がボケると多くの場合思考停止を来し、「認知機能の改善」と「進行遅延」という効能に藁にも縋る気持ちで信頼し、治療効果が一日でも早く出るよう祈りながら薬を飲ませておられる。最近は患者自身も認知機能の改善と進行遅延の薬効を理解して薬を飲んでいるらしい。
「認知機能の改善」とか「進行遅延」という耳触りのいい治療目標は一体何を根拠にして語られているのであろうか。
高血圧であれば治療を行えば血圧低下というはっきりとした効果が確認できる。糖尿病もしかりで、糖尿病患者で自分のHbA1Cの値を知らない人はいない。治療がうまくいけばHbA1Cは目標とする値に近づく。いずれの疾患も長期の目標はともあれ、短期の目標については患者もよく理解して治療に取り組んでいる。
それに反して、ボケの場合は、血圧とか血糖値というわかりやすいマーカーなしで認知機能の改善や進行遅延の判定を行わなければならない。
薬屋のパンフレットには、ADAS-J cogスコアーやSIB-Jスコアーを使って、認知機能の改善や認知機能の進行の遅延効果が証明できたと印象的な図が載せてある。
ただ認知症の専門家以外の、一般医家でADASスコアーやSIBスコアーについてご存知の方はいるだろうか。認知症に親しい私でもADASはAlzheimer’s Disease Assessment Scaleの略であり、SIBはSevere Impairment Battery の略であることぐらいしか知らない。
ADASについてはわたしの手元にある「高齢者のための知的機能検査の手引き」(大塚俊夫、本間昭監修 ワールドプラニング,1991)にコリン作動性薬物の認知機能に及ぼす効果を評価する目的の検査法とその詳細(p43~52)が紹介してある。臨床心理士のような専門職がいなければ実施できない。片手間にやれば再現性がほとんどないデータが出そうである。検者によって異なった値が出る検査法である。
SIBに至ってはネットを検索するが、その詳細について知る手がかりが全くない。薬剤師にSIBスケールを使ってメマリーを販売している製薬会社からその評価表を取り寄せるよう手配しているが、まだ手元にない。
多くの人たちに親しい疾患になった認知症の治療効果が熟練した心理士のような専門職にしか判定できないままになっているのは一体だれの責任であろうか。自分が親しくもない検査法で明らかにされた認知障害の改善や認知障害の進行遅延効果を製薬会社が宣伝するままに患者に説明して投薬を続けるのはいかがなものであろうか。認知機能の改善や認知障害の進行遅延効果と誤解を招く表現(誇大広告)を使うべきではなく、ADAS-JスコアーやSIBスコアーが改善すると正確に表現するべきである。猫だましのような効能を語ることを止めなければ、認知症の本当の治療目標について真面目に語ることはできない。副作用が出ても、患者家族を説得することができない。嗚呼!患者は二重の重荷を負わされる。
抗認知症薬の薬効をADAS-Jで明らかにしたという製薬会社が、同じパンフレットでCIBIC plus-J(Clinician‘ Interview-Based Impression of Change plus-Japan
:老年期痴呆の臨床評価法)(詳細についてわたしは知らない)で偽薬群、レミニール16mg投与群、そしてレミニール24mg投与群で比較すると、改善も、変化なしも、悪化もほぼ同じ割合で、その有効性が確認できなかったとのデータを示している。ADASスケールやSIBスケールだけを信頼して治療目標を立ててはならないと思う。
これだけ多くの人に親しくなった認知症である。治療目標くらいは誰でも評価できるようなかたちにするべきである。わたしの治療目標はここで書くのも恥ずかしいくらいのシンプルなものである。
認知症の治療目標について、もっと真面目に議論するべきであろう。わたしは権威や薬屋を信じていると言っているだけでは済まないような気がする。
次回に重度の認知症の治療についてのわたしの日頃抱いている違和感について書いておきたい。




by rr4546 | 2015-03-20 01:48 | 医療関係 | Comments(0)